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【Act.04】
「じ、じゃ、どうする? ご飯行く? それとも……」
「あっ、ご飯の前に少し寄りたい所あるんだけど……」
さて、本題だ。
「私が、お世話になってる人のお店がこの近くなのね。 今日、やっとコースケくんに会えるから嬉しいって話したら、連れておいでって言ってくれたの」
「お店?」
「ほら、私、関西から上京してフリーでモデルやってるって話したじゃない? 初めてモデルとして使ってくれたお店の人なんだ。 だから、コースケくんに紹介したいんだけど……ダメ?」
もちろん、ノーとは言わせない。
だから、ここでまた甘えた上目遣いを見せる。
「えっ? 僕を……紹介?」
歯切れの悪い言い方は、少し警戒した模様。
でも、この言葉を言えば安心する。
「親代わりみたいな人だから、何かと心配みたいで……」
「あ、そう……なんだ」
「そんなに時間は取らせないから、お店に寄った後、ご飯に行って……」
彼の腕にあった手をそのままスルスルと下ろして、手の甲を伝って指を絡めるように握った。
べっとりとした汗を感じる。
でも、今離せば、確実に逃げられそう。
だから……。
「お酒飲んで、楽しかったら……そのあとは……?」
絡めた指を握って、彼の耳に唇を近づけて囁くように言うと、私の言葉の先を読んだように「ごくっ」と、また喉を鳴らして頷いた。
「いいよ、いい! ヒナちゃんの親代わりの人に挨拶すればいいだけでしょ?」
案の定、「うん、わかった」と、鼻息荒く言われた。
「ほんと? 嬉しい!」
彼の笑顔に合わせるように、目尻を下げて頬を上げてみせた。
それと同時に、私の耳にはトラップゲージの閉まる音が聞こえた。
はいっ! 捕獲完了!
本日のカモが見事にネギを背負って、私と言うエサに喰い付いてくれました。
これで、今日の仕事は終わったも同然。
心の中でそうほくそ笑み、何も知らないカモの汗ばんだ手を引っ張って、雑踏の中を歩き出した。
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