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【Act.06】
そもそも、何故
地元の神戸を離れて東京のど真ん中の渋谷を選んで家出したのか……?
それには、2つ理由があって。
1つは、うちの親の目も手も届かない異国のような土地が関東だから。
もう1つは、多彩なプラットホームを持つオンラインゲーム【SEVEN's GATE】で知り合ったゲーマーの【アッキー】が、私の目を覚ましてくれたから。
と言うと、ネットで知り合っただけの会った事もない人間をよく信じたな、と思うだろうけど、私の場合は、素性を知らない者同士だからこそ、素直に心の内を言える部分が大いにあった。
本当の名前も知らない、性別も曖昧で、年齢もチャットやDMの文面で推し量るしか無かった。
もちろん、何をしているとか、何処に住んでるとかも一切訊かない関係だった。
ただ、バーチャルな空間で現実世界を忘れて、自身を投影した狼には見えないゆるキャラチックな犬っぽい着ぐるみ姿のアバター【アッキー】と
頭に卵の殻を乗っけたヒヨコの着ぐるみ姿の私【フレッジ】として、プレイヤーたちが集まる【セブンス・ヘブンの街】で毎日のように会っていた。
そして、街にいる【ラビー】と呼ばれるウサギたちを探し出し、そのコたちが持っているキーを集めて報酬やアイテムを獲得するお宝探しゲームで遊ぶだけ。
でも、助け合って、協力し合って、ラビーを捕まえ、キーを集める事で不思議と信頼関係は生まれていた。
そんなアッキーに、ふと訊いた。
『お見合い結婚ってアリだと思う?』
すると返って来たのは
『そう訊いてる時点でナシだと思ってんでしょ?』
その言葉が、腑に落ちなかった私の気持ちのど真ん中を捉えた気がした。
だから、思い切って家の事情を話した。
父親の会社が外資に押され、経営が悪化。
それを助けるべく手を差し伸べて来たのは、袂を分かって独立したとある会社。
過去に因縁のある二つの社が手を結ぶには、確固たる徴を社内外に示さなくてはならない。
それが、私の婚姻と言う形で、家同士の繋がりほど強固なモノはないと親に泣きつかれた。
大事に育てて貰った事は有難いけれど、私の人生なのに、なんで好きでもない人と結婚しなきゃならないんだろ……て思ったから口にした。
そしたら、親と初めて大喧嘩になった。
いつもなら、兄のように慕っていた人が間に立ってくれて、私の言い分や親の言い分を汲み取って双方に伝えて調整してくれていたのに……。
その彼が結婚した事で、私は失恋し、距離を取ってしまい、この落としどころが見つからない困った事態を引き起こしてしまった。
こんな親子喧嘩を【アッキー】は冗談だ、面倒だ、とは思わず、親身になって聞いてくれた。
自分の力で親を説得出来ないと嘆く私を励まし、「嫌だ、嫌だ」と子供のように駄々を捏ねるのを慰め、「もう……いいや」と投げやりになる事を叱ってくれた。
そして、問われた。
『【フレッジ】が本気なら、僕も本気で手を貸してあげるよ?』
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