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【Act.15】
もぉ……なんなの、このオトコ……。
私がトラップガールだって知っていて、さっきから「お礼」だとか「デートしよ」って連呼してたって事でしょ。
冷やかしなの?
からかってんの?
それとも、私の正体を知ってるって脅してんの?
その笑顔の下が怖すぎる……。
とにかく、離れなきゃと警鐘が鳴る。
だから、また立ちはだかった彼を避けるように、少し足早に歩き出したんだけど、バッグのポケットに入れていたスマホの通知音が私の歩調を緩めた。
スマホを開くと、救いの神じゃ無く保険のカモちゃんからのメッセージ。
【御犬様の前に到着♡】
と、何故か隣で私の手元を覗き込む影。
「サクマ……コー……?」
彼が、メッセージ相手を読もうとしたから画面を閉じた。
「人と待ち合わせてるの。 だから……」
……着いて来ないで。
そう言いかけた時、彼が不意打ちのように手元にあった視線を私に向けて言った。
「やだ」
掬い上げるように見る茶色の瞳は、さっきまでのチャラけた雰囲気じゃなく、妖しく艶麗さを含ませたように見えた。
その瞳を見た瞬間、不覚にも、捕らわれたかのような錯覚を起こした。
やば……。
それを見過ごさなかった彼は、見えない手を振り払うように逃れようとした私をその瞳と同じく、ヘラヘラと愛想良く笑っていた顔をすり替え、口端を上げて不敵に笑ってみせた。
「そいつより、オレとデートしよ?」
さっきまでの誘い文句は遊びだったかのように、自信たっぷりに「いや」とは言わせない口調と凄みを増して微笑む綺麗顔に息を飲む。
一瞬で変貌した獲物を狩ろうとする鋭い瞳に光が宿る。
その瞳に捕らわれた私は、怖くもあり、でも……全身に電流が走るような痺れを感じてゾクリとした。
な、なにっ?! この感覚?!
やっ……ちょっと待って……。
ドキドキしてる心臓の意味がわかんない!
発火したんじゃないかってほど、身体が熱い!
なんなの! なんなの!なんなよぉぉっ!
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