シバンムシ

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 若様の顔を直に見たことがあるのか、と。  離れ以外で若様には会えなかったのです。本来屋敷の方は奥にいて、気軽に会話をできる相手ではありません。奥様もふらりと私の元に現れて、離れの様子をたまに聞くぐらいで。それも、私が慣れてくるとだんだん頻度が減っていきました。  ですが、そう。奥様があれほど美しい方なのですから、祈様もきっと素晴らしい容姿の持ち主に違いなかろうと、そう確信しておりました。  私の想いは募るばかりです。  ええ、ですから。ですから…ええ。  ――見ました。  あの日、決して取ってはいけないと言われた目隠しを…。そっと、下から引き上げて…覗き込むように。  そう、見たのです。  見た。  見えた。  真っ暗な中で佇む、あの方を…。  あれ?  どんな顔でしたっけ?  若様。  そう、素晴らしい方だってのです、若様は。とてもとても素晴らしい方で。  あれ?  でも、どんな。  素晴らしい。  あれ?
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