強敵

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 姿は見えずとも俺には分かる。気配がする。奴は近くにいる。  右手に片手剣、左手には盾。装備、気持ちともに完璧。  つまり、俺の勝利は見えているようなもので。  ──負ける気がしねえ。  窓から差し込む光が室内を照らす。  ある箇所に視線が止まる。  光を反射し光沢を放つ体表。そこにただいるだけなのに存在感を撒き散らす。  ──奴だ。  見間違うはずもない。我ら人類の宿敵。Gだ。  扁平な体型ながら強靭な顎で獲物をかじり。  長い触角と尾毛から周囲の情報を、暗闇だろうが察知可能であり。  発達した脚は最大秒速1.5mという驚異的なスピードを誇る。  また二対四枚の翅で飛行できる種もいるという。  実は後退ができない、という欠点はある。  だがそんなものは些事。全く気にならないほどに奴らには死角がない。全パラメーターがかなり高い。  唯一の救いと言えば、人類の最大の長所──人間のように道具を用いないことか。  頭を使うようになってはいよいよ人類に勝ち目はなくなってしまう。  世界を影から牛耳ることで広く知られ、民間人の家から、公共施設、果ては俺の拠点まで。奴らの侵略はとどまるところを知らず。  隙きを見せれば懐に入り込まれ、知らぬ間に家が支配されていた。なんてこともしばしば。  だが、真に恐るべきはその生命力。もはや執着と評したほうが正しいか。  水さえ摂取しない状態でも奴らはなんと一ヶ月半ほどの活動ができるというのだ。我々人類の数倍以上だ。これを執着と言わずなんと言うのか。  なので、火星にGを連れて行くのはやめましょう。絶対にだ。  その生命力をもって太古から領土を拡大してきた。今ではもう全世界の規模までに。  全身を目視した瞬間、ゾワッとした。  かかとから頭まで一瞬にして電気が通ったような感覚。日本刀の如く鋭利で、とても久しい感覚。  この先に起こるであろう戦闘への武者震いなのか、生理的嫌悪感からくる鳥肌なのか。  俺はとにかく震えた。この時この瞬間に。会いたくて会いたくて、つい震えるほどに。  先手は奴だった。  突発的な加速。高速移動。そこへ一閃。 「はあッ!!」  外したか。  だがそんなことは予想通り。  続く二撃目。 「てりゃッ!!」  躱される。  負けじと攻撃の手は緩めない。この戦場において休憩している暇など存在しない。  振り上げ、躱される。突き、躱される。横薙ぎ、躱される──。  ……俺と奴の攻防は恐らく五分と五分。  敵ながらあっぱれな動きだ。 「だが負けんッ!!」  のこのこ姿を現した奴にむけ、跳躍。右手を振り下ろす。  ハイスピードな一撃は、果たして、通用せず。 「チッ……」  舌打ちと着地音だけがその空間に虚しく残る。  真夏の蒸し暑い場所での格闘。  さすがに暑い。  高校二年生の体力的にはまだ動ける。むしろやる気が無尽蔵に溢れ、無限なる戦闘を繰り広げられる自信もある。  けれど、汗が尋常ではない。びっしょびしょでやばい。  容赦なく鎧や装備のパフォーマンスを下げている。フローリングに水分が付着し、足元にも気をつけなければならん。  一旦、引くか……。  態勢を整えるべきだという結論に達し、額の汗を拭った──その瞬間。 「ドタドタが下まで聞こえて、うるさいんだけど」
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