薔薇は咲く ※

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次の日、入学式もそこそこに1年の派閥争いが始まると、仁斗達4人はたった一日で1年の頂点に立った。その中でも仁斗と朝陽の強さは別格で、かすり傷さえ負っていない2人が足元に沈んだ男達を見下ろす様に、純輝と一徳は胸を躍らせた。自分達が一生を掛けて付いて行きたいと思わせる強さと美貌が並ぶ姿は神々しくもあった。 「今年も派手だな」 体育館から出て来る4人を迎えたのは3年を仕切る  ’遊佐流星’  関東の半グレ集団スカルを纏めている男で、強さは勿論冷静な状況判断を下せる遊佐を仁斗は自分の兵隊にしたいと考えていた。 「これから宜しくお願いしますよ、先輩」 仁斗がポケットから出した煙草を咥えると、遊佐が近付いて火を差し出す。 「ここではどんな目にあっても看板は関係ねぇ、それが決まりだ」 「ガキの喧嘩に首突っ込む程千龍会も暇じゃないんでね。まぁ、金が絡むなら話は別ですけど」 仁斗が不敵に笑い紫煙を吐き出すと、遊佐も小さく笑い挑戦的な眼を向けた。そして、その様子を眺め煙草をふかしている朝陽に視線を移すと、遊佐は口笛を1つ鳴らし色を含んだ目で朝陽を見る。 「随分色っぽい子猫ちゃん飼ってんだな」 その視線を遮る様に仁斗が体を滑らせると、遊佐は口角を上げ仁斗の肩に手を置き耳元で 「子猫ちゃんが皆の ’女’ にされねぇように気を付けるこったな」 そう囁いて校門前に集まっているバイク集団を引き連れて消えた。 「仁斗」 近付いて来る朝陽に仁斗が視線を移すと、 「朝陽!」 大きな声が響いて4人は一斉に声のした方に体を向ける。現れたのは2年を仕切る、円城会柄谷組の息子  ’柄谷慎二’ だ。柔道でもやっていそうな大柄な体が、後ろに50人程の男を従えて足早に近付いて来ると、朝陽は顎を上げ挑戦的な表情で柄谷を見てニヤリと笑った。 「変態野郎のお出ましだ」 「お前が入ってくるのを待ってたぜぇ」 ニヤケた顔で朝陽だけを見る柄谷に、仁斗が一歩出ようとすると、朝陽がそれを手で遮ぎる。 「相変わらず気持ち悪ぃ野郎だな。未だに女日照りが続いてんのかよ・・お前、モテなそうだもんな」 朝陽の言葉にも柄谷は笑ってみせるだけの余裕を見せ、それが仁斗を苛立たせた。 関東に身を置く組は千龍会だけではない。円城会は、最近では千龍会に次ぐ勢力まで成り上がって来ていて、その中で最も勢いがあるのが柄谷組だ。また宇田組と柄谷組は存外近くに居を構えており、同中出身の2人が度々衝突しているのを仁斗は知っている。その衝突の原因が仁斗は気に入らなかった。 「今度こそお前を俺の ’女’ にしてやる」 「・・またそれかよ・・男のケツ狙って楽しいか?」 「中学ん時は後一歩だったが、ここは無法地帯だ・・あん時みたいにはいかねぇぞ」 柄谷の言葉に仁斗の眉がピクリと動く。 「ビービー泣いて漏らしてた奴が偉そう言ってんな」 「な・・泣いてなんかねぇし、漏らしてもねぇ!」 朝陽がニシシと笑って顔を近づけると、仁斗はそんな朝陽の肩を掴んで2人の間に割って入った。 「明日だ、首洗って待ってろ」 仁斗が柄谷の胸に拳を付けると、柄谷の眼がギラリと輝き仁斗と視線を合わせる。 「俺が勝ったら、そいつを俺に差し出せ」 「勝てたらな」 静かに睨み合う2人の気迫に、周囲は声を掛けられずにいたが、勝手に話に上げられている朝陽当人だけは楽しそうに笑っていた。 「帰るぞ」 仁斗が柄谷の肩を押す様に歩き出すと、3人も殺気を含んだ兵隊達を横目に仁斗の後を追った。
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