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「やんなきゃおさまんねぇってのなら相手になるけど?」
兵隊が一歩踏み出すと、
「止めろ!俺に恥かかすつもりか!」
倒れていた柄谷が体を起こしながらそれを制止し、それを受けて兵隊達は悔しそうな表情を見せながらも、それ以上足を踏み出す事はしなかった。
「柄谷、2人だけで話がある」
仁斗が柄谷に声を掛けると、柄谷は周囲に1つ頷いてみせ、兵隊達がその場から遠ざかると、朝陽も純輝達の元へ戻った。
柄谷の耳元で囁く仁斗の背中を見ていると、柄谷が驚いた表情で朝陽を見る。純輝と一徳は仁斗が実行に移したのだと分かって複雑な表情を浮かべたが、朝陽は柄谷の視線にニッコリと可愛い笑顔を向け手をヒラヒラと振っていた。
「一週間考える時間をやる・・俺の話を受ける気になったら屋上へ来い・・」
冷たい表情を浮かべたまま仁斗が踵を返すと、3人も仁斗の後に続いてその場を後にした。
柄谷はそれから二日後、屋上へと姿を見せた。
仁斗の機嫌は最高潮に悪く、その苛立った様子に仁斗の兵隊達も、柄谷の兵隊達も息を潜めたが、柄谷はツカツカと朝陽の前まで歩み寄ると、ガシッと朝陽の両肩を掴み、
「俺、絶対大事にするから!」
と、謎の宣言を始め、後ろから仁斗の蹴りをくらった。
その後、仁斗と朝陽、純輝と柄谷は揃って仁斗のマンションへと入る。純輝としては2人のやっている様子を隣の部屋で聞き耳を立てるなど正気の沙汰ではないと思うのだが、これには仁斗が頑として譲らなかった。
その癖、シャワーを勧められた柄谷が躊躇していると、
「汚ねぇ体で朝陽に触るんじゃねぇ!とっとと浴びて来い!」
と怒鳴り出す始末で、純輝は深い溜息を付いた。
ゲストルームに2人が入ってその扉が閉まると、仁斗はリビングのソファへと腰を下ろした。純輝はそんな仁斗に冷蔵庫から出した缶ビールを差し出す。
「純輝・・俺はもう自分を抑えるのを止める」
ビールを流し込みながら仁斗がそれを口にすると、純輝も仁斗の静かな決意に頷き、ビールに口をつけた。
「ここに柄谷を連れて来たのは自分への戒めだ・・。俺はあいつ以上に大切なもんなんてねぇからな・・正直、千龍会の看板なんてどうでも良かった」
「知ってるよ」
小さく笑う純輝に、仁斗も視線を合わせて同じ様に小さく笑った。
「お前や八坂がそれで歯がゆい想いをしてたのも分かってる・・悪かったな」
素直の頭を下げる仁斗に、純輝は胸に熱い想いが込み上げた。互いに望んで生きている道ではない。同じ葛藤を抱いているからこそ、純輝はこれまで仁斗がどんなにやる気を見せなくても何も言えなかったのだ。
「これからはシノギにも手を出していく。そうなると外で幅効かせてる遊佐は絶対に必要だ。でもな、俺はあいつを・・朝陽を二度と他の誰かに差し出すつもりはない」
「それは俺も同意見だ。むしろ他の奴に抱かせれば抱かせる程朝陽の価値は下がる。柄谷は特例だ」
ブレーンとしての純輝の言葉に、仁斗から安堵の表情が垣間見えると、純輝はずっと考えていた今後の事を話し始めた。
「柄谷の件で遊佐が動いたら、奴には別の餌を用意する。これはもう一徳や親父に動いてもらってる」
純輝がニヤリと笑うと、その行動の早さに仁斗もフッと笑った。
「痛ってぇな!!このド下手クソ!」
ゲストルームから朝陽の怒鳴り声が聞こえてくると、仁斗と純輝は顔を見合わせて立ち上がったが、流石に部屋を覗くのはいかがなものかと視線だけを扉に投げた。
それから5分も経たない内に、意気消沈した柄谷が部屋から出てくると、その様子に状況を察した二人は声を掛けられずにいたが、スエットと上裸姿で部屋から出て来た朝陽が憮然とした表情で柄谷の背中に声を掛ける。
「慎二、お前最低でも5人男抱いてこい。全員イカせる事が出来たらそん時、もっかい俺んとこ来い」
泣き出しそうな表情だった柄谷が朝陽の言葉にパッと顔を綻ばせ、ヘッドロックかと思う程首を縦に振ると、それを横目で見ていた仁斗と純輝は、
‘完全に犬に成り下がったな・・’
心の中で呟いた。
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