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職場の後輩の川瀬が最近、元気がない。
いわくつき物件に住み始めてからだ。
気になって声を掛けたら、
「先輩、俺の部屋、悪魔がいるんです」
かなりヤバい状態だ。
俺は会社帰りに川瀬の住むワンルームマンションに寄った。
ドア越しに女の子たちのキャキャという賑やかな声が聞こえた。
インターホンを押すと、ドアが開き、ショートヘアのよく似合う、可愛い女の子が顔を出した。
奥にも数名の若い男女がいて、酒盛りをしている。川瀬はというと、部屋の隅で体操座りをして俯いていた。
「私たち、川瀬先輩の大学の天文部の後輩なんです。先輩が元気がないと聞いて、励ましに来たんです。よかったらご一緒にどうですか?」
愛くるしい笑顔で誘われたが、この後、恋人と会う約束があったので、後ろ髪を引かれる思いで、そこを後にした。
翌朝、川瀬は電車に飛び込んで死んだ。
葬式では、俺は受付を担当した。
だが、いつまでたってもあの賑やかな後輩たちは現れない。
川瀬と同じ大学出身の社員に尋ねると、
「川瀬はクラブになんか入っていませんでしたよ。それに天文部なんてうちの大学にはありませんけど」
悪魔だからって必ず角や翼や尻尾があるとは限らないわけか。
もし、あの時、誘われるがままにあの宴に参加していたら、今頃俺は……。
背筋に冷たいものが走った。
葬式が終わって、一人暮らしのマンションに帰ると、ドア越しに賑やかな声が聞こえて来た。
まさに悪魔の声だ。
どうやら今度は俺の番らしい……。
(終)
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