手紙

4/4
前へ
/9ページ
次へ
最後まで読んで、啓介はため息をついた。 不思議と涙は出なかった。 「本当に...馬鹿だなあ...」 ポツリと呟く。 「...まあ、人のことは言えないな...俺も...」 ちらり、と10年前に自分が書いた手紙を見る。 一度は取り出した思い出を煎餅の空き箱に入れ、上に手紙を乗せる。 そして、元あったように蓋を閉め、脇に抱えると、公園から立ち去った。 もうほとんど日は落ちかけている。 ヒグラシの鳴き声が、啓介の背中に跳ね返って響いた。 公園に、10年前と変わらず風が吹く。 その風は、草木を揺らし、はるばる山を越えて、啓介の帰る家に吹いていく。 きっと、10年と言わず、何年も、何年も。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加