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最後まで読んで、啓介はため息をついた。
不思議と涙は出なかった。
「本当に...馬鹿だなあ...」
ポツリと呟く。
「...まあ、人のことは言えないな...俺も...」
ちらり、と10年前に自分が書いた手紙を見る。
一度は取り出した思い出を煎餅の空き箱に入れ、上に手紙を乗せる。
そして、元あったように蓋を閉め、脇に抱えると、公園から立ち去った。
もうほとんど日は落ちかけている。
ヒグラシの鳴き声が、啓介の背中に跳ね返って響いた。
公園に、10年前と変わらず風が吹く。
その風は、草木を揺らし、はるばる山を越えて、啓介の帰る家に吹いていく。
きっと、10年と言わず、何年も、何年も。
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