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緋露は人望が厚く、いつも周りに人がいた。男も女も分け隔てなく、立ち位置なんてものは彼には通用しなかった。その背景には人柄の良さが伺えるだろう。羽神家を訪れた際も親や祖父母、果てには庭師からも同じ印象を持つことが出来た。
「紹介するね。彼が爽ちゃん」
緋露の部屋にいたのはガーターベルトにソックス、サスペンダーとショートパンツが同じ黒に、シャツには黒ネクタイをした少年。
少年は陽に輝く白髪の頭をしていて、ブルーサファイアの瞳をしている。
「そうちゃ……ん?」
「爽やかな男の子だから、爽ちゃん」
「うむ?聡明な、という意味ではなかったのか、緋露よ」
「あれ、そうだっけ」
「ま、お主がいいなら別に今までの呼び名で構わん」
見た目の幼さとは反対に歳を重ねた者の口調とは。
若い子に流行っているのか?いや、存在に驚いて現実を見失ってはいけない。
「……緋露、この子は何者なんだ?」
姉と兄はいたが、弟がいるとは説明されていない俺は同じく緋露に説明を求めた。
「座敷童子だよ」
「ザシキワラシ」
「このノッポ、日本古来の妖怪すら知らんとは……育ったのは背だけだったようだな」
腕組みで出会い頭から俺を睨んでいたガキはわざとため息を漏らし、可哀想な目で見てきた。
えぇ……めちゃくちゃムカつく……。
「座敷童子くらい教養で知ってるが、伝承ではおかっぱ頭の女の子じゃなかったか?」
可愛かったり怖かったり……作者によって様々な描きようだったが、小学生みたいな男の子だとは聞いたこともない。
そんな俺の心を読んだかのように、そうくんとやらはやれやれと頭を振る。
「何も分かっておらんな、最近の若者は」
『は』の後にちっちゃな『っ』がなかったか?
「座敷童子に性別は関係のう。女もおれば男もおる。姿見、年齢も千差万別じゃが……お前にはちぃっとばかし早かったか?」
カチン。
「何が早いって?」
「おつむに合わなかったかな」
「そうちゃんも浩慈くんも仲良くなるの早いね〜。これなら僕も安心、安心。今日から二人でこの部屋を浸かってね」
「「は!?」」
なんだそのミッション。こんなガキとのシェアルームなんてインポッシブルなんだが!?
「し、しかし、緋露。お前は我輩と昔のように一緒に……」
「俺と一緒に……」
「ほら、ばあばの部屋から遠いでしょ?足のこととかあるから、近くで待機してあげたいなって」
緋露のばあばこと祖母はトレーニング中に足を折ったようで、幸い大事には至らなかったもの、ばあちゃん子である緋露は心配して実家に帰りたいと俺に申し出たのだった。
孫から祖母への愛を痛感した俺はこんなやつと喧嘩しているのも馬鹿らしくなってきた。
「一人で抱え込むなよ?すぐに飛んでいくし、いつだって聞いてやるから」
「えへへ、ありがとう。男一人担ぎながら子守り出来ちゃう浩慈くんが言うんだから安心だね」
捉え方が斜め方向に行っちゃうのは緋露の可愛いところでもある。足を並べて歩く度、苦笑いが緩んだ笑みになっていくのだから不思議だ。
「へっ。頭でっかちはさておき、何かあれば我輩に申してみると良い。叶えてやろう」
「お前な」
「ありがとう、二人とも!」
こうして変なやつとの共同生活は幕を開けることになった。
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