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「ばあば、元気でね……!」
「ひいちゃんも元気でね〜」
玄関前で熱い抱擁にキスのやり取りが何度も行われ、苦笑いしているしかなかった。
「浩慈さんもありがとうね。すっかり良くなっちゃったわ!」
「いえいえ、お祖母様がまだまだお若いからですよ」
「あら〜!」
言ったが最後、俺も同じように送り出されるなんて。
帰りの新幹線の中で昼の弁当を食べ終えた俺は緑茶を飲み干してあることを緋露に聞いた。
「あいつ、なんであの家にこだわるんだ?緋露が好きなら付いてくればいいものを」
あいつなら我輩が先輩として指導してやろう!とか言いそうなのに。
それとも羽神家の福が逃げないようにしているのか?
俺の質問に大好きな唐揚げを食べようとした緋露の手が止まる。
鼻で呼吸する音が耳に届く。
「実は……そうちゃん、座敷童子じゃないんだよね」
箸がカランカラン、と膝から転がり落ちていく音が遠くなっていった。
地縛霊は自身が死んだことを受け入れられない霊が留まり続けることだと認識してるが、緋露曰くそうちゃんは自覚があるらしい。
「何百年前のことなのに今でも鮮明に覚えているみたい。僕のひいひいおじいちゃんがあの場所に家を建てたそうだから、その頃にはいたんじゃないかな」
自分の正体は緋露以外の人間には見えず、見送りも窓から手を緩く振られただけ。
「変わらず優しくて、口悪かったかもしれないけど本心じゃないと思うよ。本当は友だちが出来て照れちゃったんじゃないかな」
年だけ食ってるのに?
でも、それは言い訳なんだろう。
「……どうして俺にあいつを紹介したんだ?」
それは、同じ部類だからか?
緋露は首を降り、にこやかに笑う。
「僕の恋人にお兄ちゃんを紹介したかったの。どっち大好きで大事な家族なんだもん」
──あぁ、ずるい。ずるいなぁ、もう。
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