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「浩慈くんに話さなければいけないことがあるんだ」
糸原 浩慈、二十二歳。大ピンチだ。
恋人がただならぬ空気を発しだし、俺は真横に開く脚を臀の下に折り畳んだ。
なんだなんだ?いきなり「浩慈くん」って重めの声で呼ばれたと思ったら、言いづらそうな顔をして。
普段の調子が高めな羽神 緋露だ。反対の言動を起こせば何かあったのだと容易に予測出来るが、俺の知る限り心当たりが全くない。自覚がないなら周りの人間か?とも思うけど、人との繋がりを器用に扱えるこいつなら既に解決に向けて事を進めているに違いない。
先週、美容院で読んだ雑誌に自覚を持てない男は恋人の信用さえ失うの一文を思い出し、ゾッとした。
付き合って今年で三年目に入る。俺は大学を、緋露は専門学校を卒業する予定で節目のある年でもあった。
まさか……まさかな。
一番の山場である三ヶ月を難なく超え、バイトの給料を出し合いながら俺たちはそれなりに楽しく暮らしている。
実家に帰るなんて……。フラグ立ちすぎか?
「僕の家に……」
待って、それ以上聞きたくないぞ!?
典型的な流れの結末なんて、皆まで言わなくても知っている。
まさか他に男が出来たよ、とか?
まさか俺の他に本妻がいて、二人の間には実子がいるとか?
焦りだした俺の脳内はフル回転する割には有り得ない仮定ばかりで、それそこ信用を損なう。
「俺の家に一緒に帰らない?」
「ちょっとま──、はい?」
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