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「今日も変化なし?」 「ないな」 「そっか。お腹は空いてる? お母さんがキャベツ茹でてくれるって言ってたよ」 「なら、それもらうわ」 「え、何か素直。食べたくないって言い張って、おとといやっとって感じだったのに」 「俺は悟った」  どこかぶっきらぼうな口調でお兄ちゃんが言う。 「だんごむしっていうのは、クソを垂れ流す生き物なんだと。こんなナリで恥ずかしがってた数日前の自分が馬鹿みたいだわ。トイレ用のバケツも用意してくれたし、俺はもう堂々と食べる」  突然食事をとらなくなったのはそういう理由だったのか、と私は乾いた笑いをこぼした。私が100円ショップで買った黄色のバケツが、掛け布団と壁の間で斜めに傾いていた。  高校生のお兄ちゃんがだんごむしになったのは急なことだった。2月の半ばだったからそろそろ2週間経つ。  私は今日のような要領で、日々だんごむしお兄ちゃんの様子を気にかけていた。バケツの中が溜まっていないかチェックしたし、だんごむしが好きな温度をちゃんと調べて、部屋をいい具合に暖めた。ベッドから降りて上がれなくなったお兄ちゃんを持ち上げる時は、特に気を遣った。  自分で暇つぶしができないからと頼まれて、ラブコメ小説の読み聞かせをしたこともある。あれはさすがに恥ずかしい。お兄ちゃんはコロコロと楽しそうに笑っていた。  こうして、お兄ちゃんとの交流の時間が増えたのだから、そんなに悪いことでもないのかも知れない。  
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