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うちには、だんごむしお兄ちゃんがいる。ボブカットの大人しい見た目の私がこんなことを言ったら、きっと心配されてしまうから、友達には内緒だ。
「お兄ちゃん、入るよー」
中学から帰ってくると、私はまず、制服を脱ぐ前にお兄ちゃんの部屋をのぞく。歩きやすいくらいには片づいた6畳の部屋は、暖房がよく利いていて、外の空気で冷えた私の頭には少し暑い。電気をつけると、ベランダへと続く窓を覆った水色のカーテンが浮かび上がった。壁際には勉強机と本棚。異常なし。
机とは反対の、部屋の東側のスペースを、引き出しつきのベッドが占領している。私はベッド脇に立って青い掛け布団をバッとめくった。
灰色の大きなだんごむしが丸くなっていた。
だんごむしは普通、小指の爪くらいのサイズなものだけど、丸くなっただんごむしお兄ちゃんはバスケットボールよりも一回りも大きかった。丸まるのをやめると枕と同じくらいだ。鎧みたいな体は青の混ざった暗い色で、音楽室のピアノのようにツヤツヤと光沢を放っている。
「お兄ちゃん、起きてる? むしろ生きてる?」
コンコン、と私は硬い背中を叩いてみた。ここまでが最近のお決まりのテンプレだった。少しの間。
「はいはい、起きてますよ」
お兄ちゃんのくぐもった声が返ってきた。だんごむしの体のどこから声が出てくるのかと、初めは気になって仕方なかったがもう慣れてしまった。
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