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この辺りで行方不明者がまた出たらしい。
そんな話を社員さんから聞いて、へえそうですかと流した。それは若い女の人で、家族が捜索届けを最近になってようやく出したのがきっかけになり、大きなニュースになったらしい。
曽我ちゃんも攫われないようにね、とか、お菓子をあげるって言われてもついて行っちゃダメよ、とか茶化されたので、「条件次第ではついてっちゃうかもしれないですねー」と言ったらウケた。
このノリ得意だけど苦手だなあ。
「あれ」
計6時間の勤務も終わりシフト表を見ていると、普段あまり入らない曜日に自分の名前が入っていた。修正テープで誰かの名前が消された上からボールペンで苗字だけが書かれている。
消されていた、つまり休みを取ったのは実崎さん。お互いバイト内で「大学生男子」として括られていて、接点は少ないけれどそれなりに仲はいい。ただ、こんなふうに急に休みを取るのは珍しかったような気がする。
「実崎さん21日いないんですか?俺入ってる」
先ほど一緒にタイムカードを押した彼がちょうどいたので聞いてみると、あっ。と焦ったように声を漏らした。
「ごめん。その日休み取っちゃって。みがわり曽我くんだったか」
「いや全然大丈夫すよ。なんか急用ですか?」
「うん。ちょっと色々あって」
普段から予定表の提出は誰よりも早くて正確な実崎さん(店長からはシフトが組みやすくていいと好評)でも、さすがに予想外の出来事はあるんだな。と至極当然のことを考えながら、適当に会話を持たせる。
「あのー、あれですか。法事とか」
「んーー…まあ、似た感じかなあ」
「似た感じ?…や、似てるなら掘り下げない方がいいっすね、すんません」
「いや大丈夫だよ!ただ、えっとね…笑われるかもしれないんだけど……。まあいいか代わりに入ってくれるの曽我くんだし」
似たような?と考え、ふと行方不明のニュースに何か関わっているかもしれない、と馬鹿げた考えに行き着いた。まあでも本当にこの辺で起こった出来事だから、本当なら洒落にならないかもしれない。そう思って話を下げようとした、次の瞬間。
「うちにね、幽霊がいるんですよ。なのでちょっとお祓いに」
あっけらかんと、何でもないことのように、実崎さんは予想もしてなかった理由をぽんと口に出した。
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