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僕たちは生まれた時から役目が決まっている、あの方から生まれあの方のためだけに働くこと。それがどんなに辛い内容だとしても。
「最初からそれが目的で、私に近付いたの……?」
「ああ、君のその香りに僕は誘われたんだ。だから僕は昨日、ミツルの身体に種を植え付けた」
人間でいう繁殖行為を利用して、僕たちは選んだ人間を花に変えることが出来る。花になった女性たちが元に戻ることは無い。その蜜をあの方に捧げるだけの存在になってしまう。
「お願い、私を帰らせて……」
小さな震えるような声でミツルは僕に頼んでくる。いっそ怒って泣いて責めてくれればいいのに、彼女は僕にそうやって懇願するだけなんだ。
残念だねミツル。ここを特定できるような知り合いはいないし、もう誰もこの部屋に入って来ることが出来ないようにしておいた。
君が花になるまで、ここには僕と君の二人だけなんだよ。
「無理だよ。君がここから逃げる事は出来ないし、後半日もすればミツルは完全に花になる。だから……」
何故だろう? だからもう諦めて、と言葉の続きが言うことが出来なかった。僕はこうすることが正しいのだと教わったのだから、間違ったことなどしていないはずなのに。
「私の香りが好きなのはハチヤなのに、私の蜜は他の誰かのモノになるんでしょう? そんなの……ヤダよ」
どうして? 僕なんかただの使い捨ての存在なんだよ、それなのにミツルは僕のための蜜にならなってもいいというの?
駄目だ、僕にはそんなことは出来るわけがない。今まで僕はあの方のためだけに、ずっと……
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