蜜の香りに誘われて

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 彼女を連れて来たのは駅から少し離れた場所にあるウィークリーマンション。ここはこの日のために少し前から契約していたもの。  家具もある程度揃っているし、僕がここで暮らしているように装えるのではないかと考えたんだ。 「綺麗にしてるんだね? 生活感があまり感じられないし、眠るために帰ってくるだけだったりするの?」  ああ、そうか。生活感なんて、そこまで思いつかなかったな。次からはもっと気を付けなくては。  「そうなんだ、仕事仕事でほとんど休みなんてない。君はこんな僕を癒してくれる?」  君の耳元でそう囁けば、甘えるように僕の首に腕を回してくる。なんだ、思ってたよりもずっと簡単じゃないか。 「ねえ、名前教えて? 私まだ貴方の名前も聞いてない」 「僕の名前? ああ……ハチヤだよ。君の名前は?」  名前なんて個々の番号のようなものだろ? まあ無いよりは便利そうだから、この子のも聞いておくことにしておこう。 「私はね、ミツル……花の蜜に流れるで蜜流(みつる)」 「……君にぴったりの名前だね、ミツル」  甘い甘い香りが部屋の中でどんどん濃くなっていく。ああ、きっとこれだけの香りを持つ彼女ならばきっと喜んでもらえるに違いない。  だけど君は意外と鋭くて、他の事を考える僕を見逃さなかった。
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