君の蜜が欲しいから

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君の蜜が欲しいから

「……なに、これ? どういうことなの、ハチヤ」  翌朝、目覚めたミツルは顔を真っ青にさせ僕を見つめていた。何本もの細い蔓が彼女の手足に巻き付いて、まともに動くことも出来ないのだから当然だ。  昨夜までごく普通の部屋だったが、今は壁のあちこちに蔦が覆ってまるで廃墟のようにも見えた。  怯えるような彼女からもやはり濃厚な甘い香りが漂ってくる、ずっと傍にいれば僕もいつか酔ってしまうかもしれない。  だけど、僕にはここを離れられない理由がある。彼女の変化を傍で見守らなければならないから。 「僕の花になってよ、ミツル」 「花? いったい何を言っているの、意味が分からないよハチヤ」  戸惑うような瞳で今置かれている状況が信じられないという顔をするミツルを見て、僕は胸の奥に針を刺されたような痛みを感じた。まさか彼女を犠牲にする事に罪悪感を感じてる? そんなはずは無い、これが最初から決められた僕の役目なのだから。 「僕がミツルのその香りごと、美しい花にしてあげたいんだ。君の蜜ならきっとどの花よりも甘いはずだから」 「何のために? ハチヤは私を花にしていったいどうしたいの」  揺れる瞳には怯えと悲しみが映っている。しまったな、意識もすべて奪っておけばよかったかもしれない。彼女が苦痛を感じないための薬しか用意していなかった。  怯えた顔を見るのが楽しみだとか僕に話して聞かせてきた奴等は、きっと悪趣味だったのだろう。 「あの方に捧げるんだよ、君の蜜を。それが僕たちの仕事だからね」
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