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「ミツル、君の蜜ならきっとあの方も気に入ってくれるから」
「そうじゃない、そうじゃないよ。ハチヤは少しも私の気持ち分かってない」
小さく首を振るミツルの首にも何本もの蔓が絡まっていて、息が苦しそうに見える。その瞳がゆらゆらと揺れて、何かを僕に訴えているようだった。
だけどそんなの分かる訳ない、だって僕は君とは全く違う生き物なんだ。ミツルたちのような複雑な感情は理解出来ない。
「ミツル、僕はね……」
「ハチヤが好き、本当はどんな姿だったとしても私はハチヤの事が……」
……まさか気付かれていた? いつから、どのタイミングでミツルにバレたんだろう。自分では上手く擬態出来ていたと思ってたのに。
「気付いていたのならどうして? もっと早く逃げれば良かったじゃないか。そうすれば僕だって……」
僕だって、何だ? 今、僕はいったい何を言おうとした?
「だって、好きになっちゃったんだもの。私もハチヤの香りに運命を感じたから」
そんな風に困ったように微笑まないで、自分がどうにかなってしまう気がするから。
どうしようもなくて僕はギリギリ、ギシギシと音を立て擬態を解いていく。身体を包む皮をビリビリと破いて羽や触角は飛び出し、膨らんだ腹部が現れてくるんだ。
僕のこの本当の姿さえ見れば、いくらミツルだって……
「……やっぱり蜂、だよね。じゃああの方って言うのは女王蜂の事なんだ」
「怖がらないの? こんな姿の僕を見て」
僕たちは人のフリをしてこの社会に紛れ込み、蜜となる人間を選んで花にする。それは全て僕らの母、女王蜂のため。僕たちの本当の姿は人間の大きさをした蜂の化け物でしかない。
それなのに、ミツルは……
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