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「好きになったって言ったでしょ? だから仕方ないよ」
「やっと分かった。馬鹿なんだ、ミツルは」
そうじゃなきゃ、絶対におかしいよ。こんな僕の姿を見てもまだ好きだなんて平気で言えるんだから。
「そうだね、そうかもしれない。あーあ、やっぱり蜜はハチヤに吸って欲しかったな」
「うん……ごめんね」
素直に謝る僕もどうかしてる。分かった、僕が吸うよと言えばミツルだって少しは気持ちが楽になるかもしれないのに。
「そういうとこ、やっぱり好き。もうちょっと話したかったけど……もう私も限界みたい……」
ミツルの瞼が少しずつ閉じていく、もう彼女に残された時間は短いのだろう。深い眠りに付いた後、多分二度と彼女は目覚めない。
「ミツル? ミツル! 待って」
まだ、駄目だ。もっと彼女の話が聞きたい、僕はもっとミツルの事が……
「世界一の花になってあげるからね? ハチヤ……愛してる」
「ミツル!?」
ミツルの瞳が完全に閉じると同時に、彼女の身体は蔦と葉で覆われてしまう。僕の声はもうミツルには届かない……
次第に窓の外は茜色に変わり、そして彼女と二度目の夜を迎える。そこに彼女の温もりを感じることは無いけれど。
「それでも甘いんだね、君の香りは……」
部屋に残されたのは人型をした緑の塊とミツルの香りだけ。僕は眠る事も出来ず、じっと夜が明けるのを待ち続けた。
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