白い涙が零れる前に

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「素敵よね。あなたも際、恋でもしたら? なんてね」  冗談交じりの一言だったが、無表情だった愛美の顔が完全に凍り付いた。 「私に、また(・・)人を殺せと?」  愛美の声は完全に冷えきっていた。氷そのものだ。愛想なしと侮蔑交じりは雲泥の差がある。流石の沙夜もハッとして、目を伏せた。 「ごめんなさい」  ついついはしゃいじゃった、と寂し気に笑った。その顔があまりに痛々しくて、愛美は場を誤魔化すように、「沙夜先生、診察お願いしてもいいですか?」と催促した。 「診察……、そうよね。――まずは白斑から確認するわね」 沙夜は心のスイッチを切り換えたようで、完全に医者の顔に変わっていた。荒れた指先がやんわりと愛美の頬に触れた。 「濃くなったわね。……腫れはなし。痛みはどう?」 「特にないです。いつも通りですね」  沙夜は確かめるように、愛美の頬のある一点を指で何度もなぞった。  その指の下には、爪くらいのサイズの白斑があった。ただ白斑と言っても、普通のそれとは違う。小さいながらくっきりと、綺麗な涙の形をしていた。  涙滴型白斑心疾患(るいてきがたはくはんしんしっかん)。  およそ百万人に1人と言われる難病。真っ白な涙の斑は、その患者の証であり、死しても消えることはない。  だがこの奇病の最大の特徴は斑の形だけではない。発症する、——つまりは斑が浮き出てくるのは、必ず誕生日であるということ。そしてその丁度一年後の誕生日に心臓発作を起こし、患者は亡くなってしまうのだ。
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