それが恋だと初めて気がつきました。

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「このヘアピンは?」 「グアムのお土産。ちょっと前にね、取材旅行で行ったときに現地の店で見つけて。見た瞬間、ナオちゃんに似合うと思ったんだ。ほら、おれのとお揃いだよ」  タスクは自分の前髪を留めているヘアピンを指差す。それは木彫りの細工がしてあってシンプルな木の実のような飾りだった。  お揃いのピン留めと聞いて、グアムの取材旅行はひょっとするとこの夏祭りの約束をした後に行ったのかな、なんて思いつく。  だが行った形跡などまるでわからなかった。いつ行ったのかもわからない。  ―けど。だからにぃは小麦色みたいに肌が日焼けをしているのか。……いや、違うな。肌の色は前からこんな感じで、それがますます強くなったっていうか……。もしかして、僕が気づいてないだけで、結構頻繁に海外に取材旅行に行ったりしてる……?  実際のところは訊いてみないとわからないが、訊けば教えてくれるかもしれない。なんにせよこのヘアピンは今回のためにタスクが用意してくれたものだ。  僕は納得してタスクを見て、そして嬉しく思いながらも照れて視線を外す。 「お揃いのピン留め……。ありがとう」  ボソボソと口ごもって感謝を伝える。そんな僕に向かってタスクの手が伸びてくる。その指先が僕の髪留めに触れて、軽く弾いた。  タスクがわかりやすく嬉しそうに笑みを浮かべる。 「うん。やっぱり。よく似合ってるね」 「……」  僕はしゃがみ込んだ。のぼせたように顔が熱くなるのを感じて、頭を抱える。  タスクの自然な行動でのこの威力。それをまともに受けて参ってしまう。  ―……凄まじい。  なんだか色んな感情が胸を渦巻いて、悶えてしまう衝動を必死で押さえ込む。  そんな内心での僕を知らずに、タスクは同じようにしゃがみ込んできて、僕の耳元に小声で話しかけてきた。 「ねえナオちゃん。お揃いで、恋人同士みたいでしょ?」  そんな発言に、もう黙っていてほしい、と僕はこらえるように自分の胸元を押さえる。 「……にぃも、とっても似合ってるよ」  そう言い返すのが精一杯だった。  タスクは僕の言葉を聞いて満足そうに微笑する。その笑みはやっぱりキラキラと輝いていて眩しくて、僕の胸をドキッとさせる。  ―無駄にイケメン……。なんかすごい。……すごい恥ずかしい……なにこれ……。  もう悩みすぎて混乱して、もう一度タスクの口にアイスを突っ込んで黙らせたい。なんて僕が不穏なことを考えていると、先に立ち上がったタスクが僕に向かって手を差し伸べてきた。 「さて。そろそろ神社に向かおうか。花火が始まりそうだ」 「? 自分で立てるよ。平気」  僕は首を傾げて立ち上がろうとする。けれど僕の意思に構わずタスクは僕の腕を掴み、軽々と引き上げた。そしてそのまま今度は僕と手を繋ぎ合わせる。  まるで子供にするようにそうされて、僕は思わず不満を呟く。 「にぃ。僕が人込みではぐれるのを心配しているの? 小さな子供じゃないんだから大丈夫だよ。万が一はぐれたとしても、携帯電話だって持っているわけだし」 「えっと。そうじゃないんだけど。……そっか。せっかくだから、恋人つなぎしようか」 「え? 恋人……つなぎ? って」 「こうやって、ね。手のひらを合わせて、指同士を絡めて。ほらこれが恋人つなぎ」  言って僕と手を繋ぎ合わせたタスクが腕を揺らす。そしてそのまま僕の手を引いて歩き出す。僕は大いに慌てる。 「に、にぃっ。こ、これはちょっと……!」 「恥ずかしいね。けど、子供じゃないからこうやって、手を繋ぐんだよ。だってナオちゃん。今のおれはナオちゃんの恋人だから。こうしたい」  やんわりと、けれど力強くそう言われてしまえばあらがえない。嬉しそうな顔のタスクを見て、仕方ないなぁ、と僕は呟いて、ぎゅっと手を握り返す。  ―恥ずかしいけれど、嫌じゃない。 「……恋人、だもんね」 「そうそう。だから恋人っぽいこと、いっぱいしよう?」  ね? とタスクに笑みかけられて僕は首を縦に下ろした。  そもそもこの夏祭りに来たのはそれが目的なのだ。照れている場合じゃない。協力してくれているタスクがきっちりやる気なのだから、僕もちゃんと応じなければ。 「……にぃ、ありがとう」 「礼を言うにはまだ早いよ。ほら、花火が始まった。行こう?」  タスクと手を繋いだまま神社へ向かって歩き出す。
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