それが恋だと初めて気がつきました。

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「……ねえナオちゃん。あの。ひょっとして、裸……?」 「あ……うん。ごめんね。一応、パンツだけは履いているんだけど」  ほぼ全裸のようなものだ。はしたない姿だ。それを指摘されると、急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。  押し黙ったタスクがおもむろに、僕の背筋をたどるようにゆっくりと撫でた。ふいを突かれて驚いて、それがくすぐったくて、僕は声を上げる。 「ん……っ!」 「良い匂いがする。そういえば、お風呂上りだったっけ」 「に……ぃ……」  僕が少し体をのけぞらせると、タスクは僕の首元に顔をうずめるように寄せてきた。首筋にやわらかいものが押し当てられる。それは以前にも経験があるものだった。タスクが食むように僕の肌に口づける。  その感触が僕の身体を震わせる。タスクにしがみついていないと、膝から力が抜けそうだ。  自分の体が燃えるように熱かった。熱くて体中が汗ばんでくる。心臓の音もうるさい。感じるくらい早く動いている。  ドキドキしすぎて、限界で。どうしてか、切なくて、泣きそうになって。  耐えられなくなって、たまらず。  僕はタスクの体を押しのけた。 「……にぃ、思わせぶりだ……!」 「……!」  僕に遠ざけられたタスクはハッと我に返った顔をしていた。ようやく気づいたというような表情だ。  呆然としているタスクに、僕は恐る恐る、訊いてみたかったことを口にする。  ほんの少しの期待を込めて。 「ねえ。……にぃは、さ。僕のこと。好きなの……?」 「……っ」  タスクは息を飲んだ。驚いていて、迷っているような仕草があった。  そして。 「……ごめんね」  そう呟いた。僕の思考が停止する。  そんなとき、パッと電気が回復する。明かりに照らされた廊下で僕とタスクは見合っていた。僕は固まったように動けずにいる。タスクが先に動いた。 「風邪をひいてしまうから。ナオちゃん、すぐに服を着て。もう少しちゃんと髪も乾かすんだよ」  そう言ってタスクが背を向ける。今にも去ってしまいそうなその背中を、僕は慌てて引き止めた。 「ま、待ってにぃ! すぐに着替えるから、ここで、僕が着替え終えるのを待っていてよ。また、電気が消えたら……怖いから」  懇願するように言った。僕は必死だ。  その願いが通じたのか、タスクが頷いてくれる。 「わかった。……待っているよ」  タスクがそう約束してくれる。僕は急いでもう一度脱衣所に戻り、手早く寝間着を身に着けて脱衣所を出た。  そこにタスクの姿はなかった。待ってはいないだろうと思ってはいたけれど、やっぱり実際にそうだと悲しくなる。  僕はタスクに完全に振られたのだ。僕の気持ちが重たくて、タスクは去っていった。  言葉もない。どうしようもない。目の前が真っ暗になって、座り込みそうになる。  タスクに嫌われたかもしれない。もう、姿を見せてくれないかもしれない。  ―……そんなの、嫌だなぁ……。  悲しくて、苦しくて。絶望したくなる。  ―……こうなるならちゃんと、僕の気持ちを伝えておけば良かった……。  そこで僕は気づく。僕はまだ、自分の気持ちをタスクに伝えていない。拒否されてしまうことは確定している。けれど、いっそ、全部伝えてしまいたい。  もう一度、ちゃんと。  僕は決意して顔を上げる。  ―まだ、終わっていないんだ。  諦め悪く、僕はタスクを追いかけるために、タスクの部屋へ向かった。
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