それが恋だと初めて気がつきました。

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「着てあげるけど、にぃが見るのは五秒だけ。それだけならいいよ」 「五秒だけ……。ナオちゃん、そのとき下も下着になってくれる? ナオちゃんが穿いている下着姿でいいから」 「う……。わかった。ならもう一つ条件を追加したい」 「かまわないよ」 「……うん。にぃって、視力はどれくらいあるの? 眼鏡を外したら、どのくらい見えているの?」  訊ねると、タスクは少し首を傾げた。 「視力? 眼鏡を外しても、両目、ともにちゃんと見えているよ。一以上はあると思うけど。今着けているこの眼鏡はパソコンでの作業をするときに目の負担を軽減するためのもので、ブルーライトカットが施してある度のないレンズだよ」 「そうなんだ。じゃあ大丈夫だね。にぃはその五秒間のとき、ちゃんと僕に顔が見えるように眼鏡を外して、前髪をあげること。これが条件だよ」 「そんな条件でいいの? たとえばアルバイト代として金銭を要求する、とか、欲しい物をねだる、とかでも対応するつもりだけど」 「え……いいよ、そんなの。なんか援助交際みたいで嫌だ……」 「ぐっ……。弟にお小遣いを渡すくらいの軽い気持ちなんだけど」 「じゃあ、それはまた今度ね。にぃ、下着貸して。着替えるから。後ろ向いていて」 「……はい」  年長者としての威厳が、などとタスクは呟いてしょんぼりとしているが、僕はそれを無視して下着を受け取ると、着ている衣服を脱ぎ、さっさとそれを身に着けた。  姿見のような鏡がないから全身像はわからないが、穿いている紺色のボクサーパンツとその下着を合わせても、とても似合っているようには思えない。  ―ヒラヒラして変な感じ。早く、脱ぎたい……。  一刻も長く着けていたい代物じゃない。僕は早々にタスクを呼ぶ。 「にぃ。着替えたからいいよ。振り向いて」 「じゃあ遠慮なく」  タスクが振り向く。  僕の指示通りにタスクは眼鏡を外し、前髪を上げて準備をしていた。頭に灰色のバンダナを巻き、顔が見えるように髪を上げている。 「じゃあ数えるよ。いーち、にーい……」  僕は数えながらタスクを見た。タスクは瞬きもせずこちらを眺めている。  はあ、と僕は息を漏らす。  やはりタスクの見目の格好良さは健在だ。今回はアラブの美形奴隷商人が商品を品定めしているみたいに思えて、なんだかとってもいけない気持ちになってくる。  ―あ。そういえば。あの模様。  ふと気づいた。タスクが頭にまいているあのバンダナには見覚えがあった。確か僕が小学校の修学旅行先でお土産として買ってきて、タスクに渡したものだ。  使い込んでいるのか昔ほどの新品さはなくて、よれて色もくすんでいる。けれど僕があげた物に間違いない。  ―懐かしい……。っていうか、にぃ、まだ使ってくれていたんだね。  なんだか嬉しくなる。あまり接することがなくて知らなかったけれど、タスクは弟思いの優しい性格の持ち主なのかもしれない。 「……しい、ご。はい、おしまい。にぃ、着替えるから後ろ向いて」 「あ……うん。ありがとう、ナオちゃん。じゃあおれはすぐ描きはじめるから……あ」  無事にタスクのモデルを終えて安堵したのもつかの間、そのタイミングで来客を報せるインターフォンが鳴り響いた。タスクがドアのほうに目を向ける。 「誰かな。こんな時間帯に」 「宅急便とか? 僕が出てくるよ」  下着を脱ぐのがもどかしかったので、その上からさっきまで着ていたティーシャツをかぶり、手早くズボンを穿くと、僕は部屋を出て玄関へ向かった。
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