それが恋だと初めて気がつきました。

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 気を落としながらタスクの部屋に戻ると、窓の傍に立っていたタスクが笑顔で出迎えてくれた。 「おかえり。ナオちゃん。誰だった?」 「あ、うん。同じクラスの奴だよ。僕が学校に置き忘れた傘を届けてくれたんだ」 「こんな時間に、わざわざ? ナオちゃんはその子と仲が良いんだね」 「どうかな。そんなに良いってわけじゃ、ないと思うんだけど」  どうだろう、と僕は首を傾げる。昭介とは親しいといえる関係ではないが、僕がそう思っていただけで、好意を向けてくれる昭介のほうは僕と親しいと思っているのかもしれない。 「……そう」  ふうん、とタスクはなにか考え込むような仕草をする。そして僕をじっと見つめた。 「ナオちゃん。申し訳ないんだけど。もう一度、下着姿をお願いしてもいいかな。参考にしたいので、今度は仕草もつけて」 「へ? 仕草って」 「こう、下着を両手で持ってまくり上げて、胸が見えるくらいに」 「え! む、無理だよそんな格好! 恥ずかしいっ」 「お願い。そこをなんとか」 「そんなこと言ったって……」  僕は激しく困惑する。嫌だから絶対に断らなければ、と思うのに。  頼んでくるタスクは冗談を言っているようでもなくて、有無を言わさない圧力のようなものさえ感じさせるくらいで、僕の了承を待っていた。  タスクに諦める気配がない。事態は動かない。  たった五秒間、さらして我慢するだけだ。  僕が妥協するしかない。視線をそらして渋々頷く。 「わかったよ。けど交換条件。これ、のんでもらうから」 「ありがとう。さっきと同じ条件なら、もちろん、続けるよ」 「それもあるけど。あのね、今月の終わりに夏祭りがあるでしょ。それに一緒に行ってほしいんだよね。完璧な、僕の恋人のふりをして」  ちらり、と僕はうかがうようにタスクを見る。タスクは少し目をみはり、驚いたような顔をしていた。 「ナオちゃんの、恋人のふり? できるとは思うけど。男のおれでいいの? その役目は」 「いい、と思う。わかんないけど。でもにぃなら条件にぴったりだし、たぶん知られてないし。……他にいないし」 「ナオちゃんが良いなら。事情はわからないけど。協力させてもらうよ、完璧な恋人役として」 「本当? ありがとう、にぃ」  なんとなく言ってみた交換条件だったが、タスクがあっさりと承諾をしてくれたので、僕の気持ちは軽くなっていた。これで悩んでいたことがいくつか解決されるだろうと前向きに思える。  さっそく僕はタスクの望みを叶えるために再び下着姿になった。二度目なので最初ほどの恥じらいはない。  こちらに背中を向けていたタスクが、そのままの体勢で僕に指示を出す。 「ナオちゃん。準備ができたら、おれのベッドに上がって壁に背中をくっつけて座ってみてくれる?」 「え? いいけど」  タスクの言うように動いて僕は返事をする。  さらにタスクは指示をつけたす。 「いいなら膝を折って立てて、内側の太ももがこちらに見えるくらい、足を外側に大きく開いてみて」 「え? あ、ちょ、ちょっと待って」 「いいかな。振り返るよ」  僕の制止も待たずタスクがこちらを見た。指示に従うようにして、僕は慌てながら、胸が完全に露呈するくらい下着を引き上げて素肌をさらす。  室内は冷房がきいていてひんやりとしているのに、体温が上昇しているせいか、身体はじっとりと汗ばんできた。羞恥で、開脚した足と下着を持つ手が小刻みに震える。  顔色を変えないでタスクが僕を見ていた。強い眼差しが向いている。射抜くような視線だ。  ―あんな目で見られたら、たえられないよ。 ドクドクと心臓が強く波打つ。刺さるようなタスクの視線に、僕は怯んでこらえるようにうつむく。胸の奥がざわざわする。やけに時間が長く感じる。 ふいにタスクが口を開いた。
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