「女がいる…」

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「オイッ、ありゃ、どーゆう事だ?」 不動産業の“K”の事務所に友人“Y”が血相を変えて、怒鳴り込んできた。 こちらを見たKは可笑しそうに頷く。 Yは有名な“遊び人”であり、仕事や女性関係で誰かしらに迷惑をかけていた。 そんな彼が失業した。貯金もなく、アパートも追い出されたYは、Kに彼らしい提案をする。 「最近はさ。何か曰くありげな事故物件とかに住む奴いるらしいじゃん。 家賃安いからってさ。俺怖いの平気だから! オメーんとこのヤバい物件紹介しろよ?ほら、昔、いい女紹介してやった恩返し…」 他の客を気にする事なく喋るYに、Kは大人の対応で“非常に効率の良い仕返し”を 実行した。 「ウチの店じゃなく、業界で有名な“曰く付き”を紹介してやったよ。 アイツにさ」 障りがある事が重要じゃない。ただ、今まで威張り散らしていたYが 事故物件に住む程、余裕の無くなった様を嘲ってやる企み… だから、こちらの予想以上に怯える彼に笑いが止まらない。 「どした?オイッ、てか、明日、早出だろ?派遣の工場…いいのか?」 煽るKに、Yは全く反応せず、言葉を続ける。 「遅番で、部屋に戻ると…女がいるんだよ。最初は…部屋間違えたとか、誰か来てたのを 度忘れしたかって思ったけど、俺の住んでる所知ってるの、お前達だけだし(“俺のせいか?”と口を曲げるK)そうじゃない。 とにかく、その女が。俺の前で、手ぇ切るんだ。腕から血流して、俺見て、 ニヤッと笑って消えてさ。流した血とな。生臭いのは残ってたがな。 そんで、また次の遅番だよ。今度は首だ。目の前で切るんだ。ほっそい首に 赤線入って、ぶわぁっと俺に…逃げたくても駄目だ。体動かねえ。 次の時は顔だ。刃物でいくつもキレ目入れて、ボトボト落ちた崩れかけで“ニチャッ”て 笑うんだ。どうなってる?あんなの出るなんて聞いてねぇっ、俺、明日遅番なんだ。 どうすりゃ…」 目を血走らせて、吠えるYの真に迫った様子が、実に可笑しい。 もしかしてコイツとKがグルで自分を嵌めてるのか? 隣を見る。 Kは笑っていない。それ所か震えている。震えたまま… 「なぁっ、Y、覚えはないのか?」 と尋ねる。 「あっ?何言って」 訝しむYに 「覚えないのか?」 とKは畳みかける。 「覚え…!?…」 Yが開いた口に手を当て、外に飛び出していく。怖気を覚える自身の耳にKの声が響く。 「紹介した物件で自殺したのは男だ。だから…アイツ、 一体何をしてきたんだ?その女に…」…(終)
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