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4 スカウト
合宿から帰って一ヶ月くらいしたある日。
またカフェバーでライブをしていた日だ。
この日はギタリストとデュオで演奏だった。
大河は変わらずマネージャー的なことをしてくれていた。
お客の中に、その後長年に渡ってお世話になる、レコーディングスタジオの榎木が俺の声を聞きにきていた。
この夜に、スカウトされることになるのだ。
「君、いい声してるよね。英語も堪能だと噂を聞いたんだが、学生かい?」
そう声を掛けられた。
「え?あ、はい。まだ学生で2回生です」
「今度、CMのナレーションをしてみないかい?英語も堪能なのが本当なら」
「え?ナレーションですか?歌ではなくて?」
「ああ、すまない。歌手になりたいのかな?」
「いえ。歌は趣味なので・・・」
「なら興味はないかい?ナレーションとか声の仕事に」
「はあ・・・・」
「君の声がいいってここの店のマスターから聞いていてね。英語もペラペラだと聞いたから今度の外国の企業のテレビCMのコンセプトに合っていると思ってね。どうだい?やってみない?」
そんな会話を横で聞いていた大河が俺の肩に手を置いて話に入ってきた。
「それってギャラ出るんですか?」
俺は思わず目を丸くしていたと思う。
すっかりマネージャーが板についていたからだ。
「ああ、もちろん。少ないが出るよ。1文章を読んでもらって、一万円。最初はそこからだな」
1文章読むだけで、一万円!!
正直自分の声にそんな値段がつくなんて思っていなかった。俺はチャレンジしてみることに決めた。
「わかりました。やったことないので何とも言えないですが、とりあえずチャレンジしてみます」
「お!そうかい!!スタジオはこの店のすぐ裏にあるからまたレコーディングの日を知らせるよ。あ。君の名前は?」
「あ、霧島治と言います。で、こっちが星野大河」
今度は大河が目を丸くしている。
まさか自分のことまで紹介されるとは思っていなかったようだった。
「じゃあ、これが僕の名刺と、連絡先。携帯持ってる?番号教えてくれるかい?」
当時出たばかりの二つ折り携帯を開いて電話番号を交換した。
これが声優になったきっかけだ。
この時にも大河は一緒にいた。
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