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8 再会
あの日からまた忙殺されていた。
バーBitterに行きたいと思いながら、いつもいるのだろうか?と考えたりしていると、時間だけが過ぎていく。
こうしていても埒があかない。
結婚して妊娠して幸せなはずだ。
でも夜バーでアルバイトをしている。
それとも転職?
もう知りたいことだらけになっていた。
21時に仕事が終わる日に、意を決して一人で行ってみる事にした。
だがその日は大河はいなかった。
代わりにマスターと話ができた。
俺が大河の大学の後輩だと言うと、来店したことを伝えようと言うので、それはサプライズにして欲しいから出勤する曜日を教えてくれと尋ねた。
マスターはすっかり信じてくれて、大河の出勤曜日を教えてくれた。やはりアルバイトなのだ。
俺はその曜日に出直す事にした。
言われた曜日、俺は23時まで仕事をしていたがその足でBitterに向かう。
ドアを開けると、カウンターに大河が立っていた。
俺はカウンターの大河の前に座った。
マスターが気がついてくれて、会釈をする。
「いらっしゃいませ・・・」
「ジントニックをください」
俺はそう答えた。
マスターに言われて、大河が飲み物を作る。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ・・・」
そのまま下がろうとする。
それでは俺の目的が達成されない。
「あの、一緒にどうですか?お好きなもの飲んでください」
そう咄嗟に言っていた。
ちょっと離れてみているマスターが大河に目配せをする。
「はい・・。ありがとうございます」
客の勧める飲み物を断れるわけがない。
本当は色々聞きたかったが、なかなかこの空間では聞きにくかった。俺はたわいもない俺の仕事の話を一方的にした。どうにか忙しくしている事。
女に振られてばっかりなこと(本当は振っているのだが・・・と言うより興味がない)
時間が24時になろうとしていた。
大河がご馳走様ですと言う。
どうやら上がりのようだ。
俺も会計をし暫く店の外で待った。
きっと大河が出てくるはずだ。
店の裏口らしいドアが開いた。
「お疲れ様でしたー」
大河の声がする。
後ろから追っかけた。
大河は走って逃げようとする。
俺は腕を引っ張って路地に引っ張り込んだ。
強引に口づけをする。
大河は暴れた。
だが、俺と大河の体格は俺の方が少しいいくらいだ。力尽くで抑え込んだ。
そのまま唇を奪い続ける。舌を強引に入れる。
大河の舌に開けたピアスが俺の舌に絡まった。
一気に大河の力が抜ける。
「治・・。ごめん。本当にごめん・・・」
そう言いながら涙を浮かべている。
俺はもうそれ以上何も言えなかった。
ただ、路地裏で抱きしめた。
「治、明日時間ある?もしあったら昼の15時に済世会病院に来てくれくれないか?」
そう言われた。
「済世会病院?わかった。明日の昼15時だな。いくよ」
不思議には思ったが、久しぶりに会った大河がそう言うのだ。何かあるのだろう。
ちょうど昼15時ならいける。
明日は夜に用があるだけだ。
「またじゃあ明日」
そう大河は言ってタクシーで帰っていった。
泣いていた・・・。
でもまだピアスしてくれていた・・・。
それだけで、この日Bitterに来た甲斐があったと思った。
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