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9 真相
済世会病院のロビー前についた。時間は15時だ。
大河からメールが来た。電話番号は変わっていないようだった。
”入院病棟の809号室に来て”
入院病棟?
誰かが入院しているのか?
不思議に思いながらエレベーターを上がっていく。
8階に着いたところで大河が待っていた。
「昨日は・・・」
そこまで言いかけた時、大河が言った。
「亜希子が入院しているんだ。癌だって」
俺は予想していなかった答えに言葉が出なかった。
「ちょっとこっちで話そう」
面会ができる小部屋のようなところで淡々と大河は話し始めた。
「治も知ってるよな?俺と亜希子が結婚した事」
俺は頷いた。
「あの時、亜希子と再会して一度きりの約束で彼女を抱いた。そしたら、妊娠してしまってね。で、責任を取る形で籍を入れた。でも、すぐに流産してしまって・・・。その時に色々体調が悪かったから検査したら、ガンが見つかって。子宮体癌だって。手術が明日ある。子宮全摘になるかもしれないと言われているよ」
俺はその言葉に何も返せなかった。
「で、今亜希子先輩は?」
「今さっき眠ったところ。少し顔を見ていくか?」
「いや、眠っているなら邪魔するのは・・・。女性だし嫌がるでしょ?」
「・・・お前はいつも優しいな。女性にも・・・」
沈黙が続いた・・・。
「この前治が来た時、もしもう一度来たらちゃんと話をするべきだなと思ったんだ。そう思ってたら、昨日治が来るから・・・」
大河はまた涙ぐんでいる。
俺はハンカチを差し出す。
「俺、初めて行った一週間前に偶然あの店の前で先輩のこと見て忘れようと思ったんですが・・・どうしても気になって・・・」
「そうか・・・。本当、ちゃんと話もできないままになってしまってすまない・・・」
「もう謝らないでください。わかってますから。大河さんと何年近くにいたと思っているんですか?あなたが何を考えているのかなんて、大抵想像がつきますから」
「お前は本当に優しいな・・・」
「・・・でもなんでバーでバイトなんて・・・仕事は?」
「ああ、仕事は続けてるさ。でも思った以上に医療費やらなんやらでお金が必要になって。それで、こっそりあのバーでアルバイトしてる」
「え?それじゃあ先輩が倒れてしまいますよ!これからは何かあったら俺にも頼ってください。俺、あれから声優でまあまあ売れてきてて多少なら力になれますから」
「うんうん。お前ならそう言うと思ったよ。ありがとう」
そう涙を拭きながら頷いている。
「でも、これは俺と亜希子のことだから・・・気持ちだけ受け取っておくよ。治」
そう言われてはもう何も言えなかった・・・。
その問題には俺は入れてもらえないのだ・・・。
「治。今日亜希子に昨日お前と再会したことを言ってあるんだ。会いたがってたから手術が成功して面会できるようになったら、見舞いにきてやってくれないか・・・」
「・・・はい。先輩たちが望むなら。勿論です・・」
俺は静かに頷きながらそう言った。
看護師さんが大河に声を掛ける。
「じゃあ、治、また連絡する」
そういう大河は少しやつれて見えた。
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