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1 序章
季節は5月。
ゴールデンウィーク真っ只中。
春から夏に向けて、少しづつ気温が上がってきた気持ちの良い夕方。霧島は久しぶりに、ラジオ番組にゲスト出演する為にスタジオに来ていた。
「今日はスペシャルゲストに来ていただいております。ダンディーな役の声といえば、この方です。ベテラン声優の霧島虎尾(キリシマトラオ)さんです」
ハイテンションなメインDJが紹介する。
「みなさんこんばんは。声優の霧島虎尾です」
低音ボイスの霧島が喋る。
「いやーほんと、霧島さんの声はダンディーですよね
ー。ハリウッド映画のイケオジはほぼ、吹き替え担当されているんじゃないですか?」
「イケオジ・・・ハハハ。ありがたいことに何人かはさせていただいてます」
「えー、早速ではございますが今日はそんなダンディーボイスの霧島さんをフォーカス!当番組の名物コーナー10問即答のコーナー!!」
賑やかなジングルがなり、そのコーナーが始まった。
「問題1。霧島虎尾とは本名ですか?」
「いいえ」
「問題2。芸歴何年?」
「えー約20年」
「問題3。得意な役柄は?」
「ダンディーな役です」
「問題4。最初の声優の仕事を覚えてますか?」
「はい。英語のCMナレーションでした」
「問題5。仲の良い声優は?」
「うーん。何人もいるけど・・・吉木譲治君かな。
一緒に飲みますよ」
「問題6。お酒は何が好き?」
「バーボンが好きです」
「問題7。最近注目の若手声優は?」
「吉田シノブくんかなー」
「問題8。最近テンションが上がったことは?」
「えーーー。内緒です」
「問題9。最近よく聞くCDは?」
「サムスミスのアルバムをドライブ中によく聞きますね」
「問題10。リスナーの皆さんに一言!」
「いつも応援ありがとうございます」
「さすがですね〜。霧島さんスラスラ答えてくれました!」
ラジオ番組のメインパーソナリティーが、テンション高く続けて言う。
「霧島さんって本名じゃないんですねー。由来とかってお聞きしても良いですか?」
「えーっと。まあ、もう業界じゃあ有名なんで言いますが、キャリアを始める時に低くて良い声だから、良い声の人・・・シナトラ?ってことでシナトラのトラを頂いてそれに男っぽいかなと思って尾がついたって言う・・・。そんな理由です。単純でしょう。ははは」
「そうだったんですねー。シナトラから来ていたとは!確かに良いお声されてますし。霧島さんは英語もペラペラなんですよね?」
「はい。子供の時を海外で過ごしていたので日常会話くらいはできますよ。大学の時に日本に帰ってきたので。まあ、そんな事もあって最初の仕事は英語のナレーションっていう・・・」
「なるほどー。そこに繋がってくるんですねー」
「今では別に英語話せる若手もいるんでもう普通なんでしょうけど、僕たちの世代だとまだ帰国子女みたいな人は少なかったのでね。まあ、そんなんでそれがキッカケみたいなものですよ」
「吉木譲治さんと仲がいいんですか?飲みに行かれるとか・・・」
「はい。吉木君は同じ系統の声なんで現場が一緒ってことは少ないんですが、家が近所ってこともあって、たまに飲みますよ」
「そうなんですねー。イケボ二人で飲んでいたら声だけでバレてしまいそうな気がしますね」
「ははは。まあ、行きつけの店があるのでバレるも何もないんですが・・・」
「そこではバーボンですか?」
「そうですねー。バーボンかカクテルを飲みますよ。友人のバーテンダーが美味しいのを作ってくれるので」
「ほほー。おしゃれですね〜。やっぱりイケオジなわけですねー」
そう茶化してくる。
「そう言ってもらえるとまだまだ頑張れそうです。はははは」
「若手で注目は吉田シノブさんとのことですが・・・」
「はい、彼の中性的な声は唯一無二ですね〜。頑張ってますよね。彼」
「最近テンションが上がった事は内緒なんですか?」
「はははは。内緒って事で」
「ドライブ中はサムスミスのCDを聞かれるという事ですが?」
「そうそう。彼の歌声がねーすごくシルキーで素晴らしいんですよ。もう声を仕事にしていると職業病みたいなもので、声に注目して聞いちゃうところがあってね。
彼の声に今ハマってますね」
「今日はまだまだ掘り下げていこうと思うのですが、その前に今度声優さんばっかりで6時間の生ラジオ番組されるんでよね?」
「はい。今度の5月の最終日曜の昼3時から夜9時まで、人気声優20人で6時間ぶっ通しの生放送をこちらのFM局で放送します。さっき名前が出ていた吉木譲治君も吉田シノブ君も勿論出ますし、当日は今若者に人気のバンド、GreednEyesも登場します。ぜひお聞きいただければと思います」
番組宣伝も終え、そのまま約20分ほど生放送は続いた。
放送を終え、家まで車で帰る途中さっきも話していたサムスミスの曲が車内に流れる。
”I’m way too good at good bye〜♪”
(僕はさよならするのに慣れすぎている)
そんな歌詞が流れてくる。
この曲を聞く度に、本当にその通りだなと思ってしまうのだった。
”なんて切ない曲なんだ・・”
思わず独り言を呟いていた。
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