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 ついにやってしまった。俺はもぞもぞと動く『あるもの』を抱え、アパートの階段を上っていた。部屋の鍵を開け、急いで中に入っていく。そして、六畳一間の奥にあるベッドに下ろした。 「ごめんね、こんなことして。許してくれ、るわけないよな」  そこにいるのは手足を縛られ、目や口を覆われた小学生の女の子だった。俺は目や口を覆った布を外していく。彼女は咳き込んだあと、何度も深呼吸した。 「いや、ホントにごめん。怖い思いさせて、苦しかったよね」  その子は攫った瞬間は声を上げたり暴れたりしていたものの、今は妙に冷静になっていた。 「おじさん・・・・・・ファンの人?」  彼女からの質問に思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまう。そうだよな、普通そう思うよな。 「そ、そうだよ。俺は『明城つばめ』ちゃんのファンなんだ。いつも動画見てるよ」  腰に手を当て分かりやすく自慢げに言ってみた。しかし、彼女は眉をひそめては顔をじっと見るだけだった。見てくれて嬉しいなんて単純な返しをするわけないか。女の子だからか、それともこの手の対応には慣れてるのか。 「私はこれから何かしなくちゃいけないの?」  彼女に問いかけられ、俺は全力で首を振った。 「まさか。むしろ色々してあげたいな、と思って。そうだ、なんか買ってきてあげるよ」 「ホントに?」  睫毛の長い目が疑うように睨んでくる。今度は全力で頷いてみせた。 「ホントにホント。なんでも買ってきてあげるよ」  笑ってみせると、彼女は腕を組み考え始める。うーん、としばらく唸ったあと、その子は口を開いた。 「じゃ、ポテトチップスのコンソメ味とコーラとフライドポテトと豚肉と・・・・・・なんでもいいんだよね? あとね、今流行ってるマンガ全巻欲しい。あと、今みんながやってるゲームソフト、本体もね。あと」 「ちょちょちょっと待って」  思わず手を前に出し、彼女の言葉を制止する。怯えて何もいらないとか言うと思ってたが、結構肝が据わってるな。 「順番に買ってくるから。まずは食べ物からでいいよね」 「ポテトチップスはコンソメ味だからね」  彼女が口を酸っぱくして言う。俺はため息をつき、部屋を出て行った。そして鍵を閉め、階段を下りていく。  泣いたり怯えたりしないことを喜ぶべきか、それとも・・・・・・。胸に引っかかりを抱えながら、近くのスーパーへ足を運んだ。
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