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「奥様、奥様っっっ。後少しでございます。もっと力を入れて下さいましっ。」
「はあっ、はぁ‥‥、くぅっっ!」
「もうほとんど見えております!後少しです!」
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バンッ
けたたましい音を立てて扉を開けたのは金髪に青の目といった王子様然とした見た目の男。
「今帰った!メリーは、メリーは無事かっ!?」
「おめでとうございます、シュタール。奥様も、御子も無事でございます!」
産婆と思わしき年嵩の女性が顔を綻ばせながら告げるのを聞いて、男は感極まったかのように愛しい女の名前を叫んだ。
「メリー!」
「ジルさまっっ!」
叫んだ男にぎゅっとやさしくハグをされたのは、ストレートの銀髪に、男より薄い空色の目という少し冷たい印象を与える容姿の女。
「無事でよかった。それが子かな?」
「はい、そうでございます。」
嬉しげに答える女。その腕の中には1人の可愛らしい赤ちゃん。先ほどまで大声で泣いていたのに、今は疲れてしまったのかぐっすりと眠っている。
「おおっ、おとこの子か。よくやったよ。愛しのメリー。」
チュッと軽い音を立てて、男は女の頭のてっぺんにそっとキスを落とした。
「ふふっ、ありがとうございます。この子を見て下さいまし。今は閉じていますけど、目がジル様にそっくりだったのですわ。まるで、瞬く星を閉じ込めた天色のようでしたわ。」
「そうか。それはまごうことなき我が家の眼だ。…それにしてもきれいな銀髪だね。こちらは君にそっくりだ。」
「もうっ、ジル様っ!」
「あはは、そんなにむくれてもかわいいだけだ
よ。」
「そっ、そんなことより、名前を決めません
とっ!」
「ふふふっ、そうだね‥…。」
ー天に御坐するシュクラルーセよ。尊きその身に
希う。この愛し子に名を授け給えー
ふわりと赤ちゃんの周りで光が舞い踊る。
「うん、降りてきたよ。この子の名は……、」
エルティリア・エスト・オルトニア
その名は優しく紡がれ、宙に溶けて消えた。
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