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頭上で輝くシャンデリア。昼下がりの陽光が差し込むステンドグラス。要所要所が金の細工で覆われた、人の背丈の何倍にも及ぶ真鍮造りの扉。そこから引かれたレッドカーペットの先には壇上。そして、さらに一段高いところには白塗りの玉座が。
ここは王の間。帝王陛下の座する謁見の間。
(新たな魔術師団長の就任と聞いたが…、いつになったら始まるんだ…)
そう胸の内でごちるひとりの貴族。
今日この日、帝国暦520年、幻狼の月、56日。
英雄王より連綿と受け継がれてきた大帝国、バルトリーゼ帝国が3師団の一つ、魔術師団団長の就任式である
のだが……
(陛下も新団長もいついらっしゃるのだ…。かれこれ20分ほど経ったぞ…)
まだ年若い青年貴族。輪郭は優雅な線を描いており、柔和な笑みを浮かべている、一見穏やかそうな好青年だ。
(全く、こっちだって暇じゃないんだよ!本っ当にいつになったら始まるんだ!)
そんな爽やかな見た目とはうらはらな愚痴を、青年が苛立ち混じりに胸中で吐き捨てていると、
カーン、カーン、カーン
だだっ広い謁見の間に甲高く響く音。
その音を聞き、その場にいる貴族は一斉に跪いた。
コツ、コツ、コツ、
先程までの愚痴はどこへやら、青年は、磨かれた大理石の床を視界に収めたまま身を硬くする。息を潜めていると、だんだんと威圧感とでもいうべきものが足音とともに近づいてくるのを感じた。
足音の主はゆったりと歩を進める。
そして、歩みを止めると、壇上でも一等高い場所、玉座に腰掛けた。
その人物は、かの椅子に座る唯一の資格を持つ者--帝王。
王が口を開く。
「皆、楽にしろ。」
言葉に従い、ゆっくりと立ち上がる。
青年は、たった二年程前に戴冠しばかりの年若い王を見つめる。
スラリとした長い足を組み、肘掛けに頬杖をついた王は、帝国の直系にのみ現れる漆黒の瞳で眼下を睥睨した。その色は夜より深く、飲み込まれるような錯覚を覚えるほど。
また、その身に纏う風格は、年齢にそぐわぬ強さをもつ。獅子の如くに雄々しく、呑まれるような圧を持ち、誰もが一目で上に立つに相応しいと思わされるもの。彼こそが生まれながらの王者だと青年は思えた。
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