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「朝ですよ、エル様、朝でございます。起きてください!」
ううん…まだ寝るぅ…。
「エル様、いい加減おきて下さい!!遅刻致しますよ!」
うう…、、ハッ!
ガバッ
「今何時?!」
「おはようございます、シュタール。今は早朝6時半でございます。本日の紅茶はアッサム茶、リーゼ茶のブレンドをご用意しております。」
慌てて周りを見渡すとそこは見慣れた自分の部屋。シックな落ち着いた色合いの寝具の上。東側の窓は大きく開かれ、爽やかな朝の風に細かなレースが施された真っ白いカーテンが揺れている。
起こした上体はそのままに声の方をツイと見ると、幼い頃から見慣れた執事の姿。今日もビシッと燕尾服を着こなしてますなぁ。
ってそうじゃないわ!6時半ってべつに遅刻しないだろ!十分早いわ!
全く朝から心臓に悪いなぁ…。無駄にドキドキしたんですけどぉぉ。
「よかったぁ。遅刻かと思った……。」
ほっとひと息。……そういやこいつ、今また朝から変なこと言ってなかったっけ?
「おはよう、セス。……ところでさ、いつまで起き抜けに朝の紅茶を言うんだ?普通他に言うことあるだろ。」
ほんとにな!他に予定とかさ、あるだろ!
いっつも聞くたびに一瞬戸惑うんですけど。
「シュタール、朝の紅茶は貴族の嗜みですよ。しかも貴方様は起きたばかりの時に話したことは覚えている方が珍しいではありませんか。ですから私はシュタールのために毎朝紅茶のブレンドを‥…。」
シクシクと鳴き真似をされる。おまけに呼び名…。うう、罪悪感が……。
「…すまない。………なあ、もう起きたからさぁ、俺のことはシュタール以外で呼んでください。」
「そんなそんな、シュタールが一介の執事に過ぎない私めに敬語など恐れ多い。」
「全くそんなこと思ってないだろ……。なあ、シュタール以外で呼んで欲しいのですけど…。」
シュタールというのは地球でいう、使用人が主人を呼ぶときにいう『旦那様』である。セスは執事だが…。幼い頃から知っているセスにそう呼ばれるのは正直気恥ずかしい。セスもそれを知っている筈である。
だが、セスはたびたび俺をシュタールと呼ぶ。
セスが俺のことをシュタールと呼ぶのは、
一つ目、公の場。そして、二つ目
————怒っている時だ。
「セスさぁん………、もしかして怒ってます…?」
「いえいえ、まさか、そんなことございませんよ。シュタール?」
ヒィイ……笑顔が怖いっす…。でも、そんな、セスが怒っている原因に心当たりはな・・・、
あっ、
「セスさん、あのですね、これには深ぁ〜い訳が、」
「おや、エル様、お気づきのようで。」
「あっ、名前‥。」
「エル様、もう研究を広げて寝落ちしないとおっしゃっていましたよね?魔術に夢中になって寝食を疎かにしないと…。」
「いや、その、これはだな、ちょっと気になる発見がだな?」
「エル様?」
にっこり
「‥‥‥‥ごめんなさい……。」
セスは所詮、イケオジというやつである。年齢不詳で、普段は好々爺としているので、いや、しているからこそ、その作ったような笑顔が怖い…。というか根本的に、昔からよく起こる時にしている顔だからこそ怖い。ああ、俺は何度あの顔で怒られてきたことか…。
「はぁ、全くエル様は…。私達はエル様のお体を心配しているのですよ。それを毎回毎回懲りずに…。」
「わっ悪かったって。今後は気を付けるよ…。」
「ぜひそうして下さいませ。」
「善処します…。」
「さっ、エル様、お支度を。お時間にあまり余裕はございませんよ。」
「ああ、分かった。」
ふわぁぁぁぁ……、ねむいぃ…。
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