2人が本棚に入れています
本棚に追加
言いながら僕は床の上を見回してみた。
彼の様子からするに、まだ捕まえてはいないようだ。
万が一にも踏むのは嫌なので入念に見まわしたが、かぼちゃの煮っころがしはどこにも見当たらなかった。
「いや、それがとんでもなく足が速くて」
「足が速い?」
「ああ、逃げ出した、と思ったらいなくなっちまってた」
「素人かよ。たかがカボチャで」
「いや、ほんとに早かったんだって。ただ、外には出て無いと思う。うちのどっかにまだいるんだよ、カボチャの煮っころがしが……」
間抜けな話もあった物だ。
玉こんにゃくやサトイモならともかく、カボチャの足が見失うほど早いだって?
通常の煮っころがしならあり得ない。
通常では無い煮っころがし……。
ひょっとしてこいつ、アレをしたのか……?
「お前まさか、塩分を控えたのか?」
「ああ、もちろん」
「塩分を控えたのに、出来立てを食べようとしたのか!?」
「まあ……な」
バツが悪そうなのも無理はない。
煮物は出汁の味が染み込むからこそ落ち着くのだが、その過程で塩分は欠かせない。
それを控えると言う事は、当然煮物が落ち着くまでに時間がかかるわけで。
逃げ出した煮物が動き回れる時間も当然伸びると言う事は、探すにしても一筋縄ではいかないわけだ。
やがて動かなくなった煮物は、その場で腐り始める。あるいは黴が生えるかもしれないし、最悪の場合ゴキを呼び寄せる結果になるわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!