煮っころがしを探せ

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 言いながら僕は床の上を見回してみた。  彼の様子からするに、まだ捕まえてはいないようだ。  万が一にも踏むのは嫌なので入念に見まわしたが、かぼちゃの煮っころがしはどこにも見当たらなかった。 「いや、それがとんでもなく足が速くて」 「足が速い?」 「ああ、逃げ出した、と思ったらいなくなっちまってた」 「素人かよ。たかがカボチャで」 「いや、ほんとに早かったんだって。ただ、外には出て無いと思う。うちのどっかにまだいるんだよ、カボチャの煮っころがしが……」  間抜けな話もあった物だ。  玉こんにゃくやサトイモならともかく、カボチャの足が見失うほど早いだって?  通常の煮っころがしならあり得ない。  通常では無い煮っころがし……。  ひょっとしてこいつ、アレをしたのか……? 「お前まさか、塩分を控えたのか?」 「ああ、もちろん」 「塩分を控えたのに、出来立てを食べようとしたのか!?」 「まあ……な」    バツが悪そうなのも無理はない。  煮物は出汁の味が染み込むからこそ落ち着くのだが、その過程で塩分は欠かせない。  それを控えると言う事は、当然煮物が落ち着くまでに時間がかかるわけで。  逃げ出した煮物が動き回れる時間も当然伸びると言う事は、探すにしても一筋縄ではいかないわけだ。  やがて動かなくなった煮物は、その場で腐り始める。あるいは黴が生えるかもしれないし、最悪の場合ゴキを呼び寄せる結果になるわけだ。
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