8人が本棚に入れています
本棚に追加
49日前
多種多様な生物が地球上に存在することを、生物多様性、なんて呼ぶらしいけれど。
僕は疑問を感じずにはいられない。
多様な生物が共存することを良しとされているのであれば、なぜ強者生存、弱肉強食なんていう言葉があるのだろう。
その多様性の中に、弱い者は入れてもらえていないのだろうか。
弱い者を切り落とし、より強い者だけが生き残り、さらにふるいにかけられ落とされて。
そうやって残った勝ち組の中の多様性を、僕らは見ているだけなのかもしれない。
だとすれば。
三十三人というクラスの中で、ろくに友達もおらず、意思表示もまともにできない圧倒的マイノリティの僕の存在も、当然認められないんだろうな。
「はい、それじゃあ修学旅行の班決めしまーす。男女混合で四人、もしくは五人グループを作ってくださーい」
そんな風に、僕はいつもこの「グループ分け」というイベントが発生するたびに思い、くさっている。
適当な番号順で割り振ってくれればいいのに、高校生活最大の思い出だなんだと銘打たれ、班分けは生徒主導で行われることになっていた。
いつも通りであれば、僕はどこかの班の片隅に押し込まれるように入れられて、イベント当日には忍者もかくやという気配の消しっぷりを見せて、フェードアウトするのだけれど。
「よっし、じゃあ藤堂君は私達と一緒の班になろっか!」
しかし織江さんが元気たっぷりに言ったことで、事態はとてもややこしいことになった。
織江さんは当然、四季宮さんとペアを組んでいたし、彼女たちと一緒のグループになりたい男子は多かった。女子だって、旅行先で彼女たちのグループと合流して、一緒に回りたいと思っていたかもしれない。
そんな中に突然現れた、異物。
目立たず、薄い、白湯みたいなやつ。
毒にも薬にもならないけれど、修学旅行先で進んで共に行動しようとは思えない。
そういう存在、藤堂真崎の突然の登場に、クラス内は不思議な雰囲気に包まれた。
微妙な感情をまとった視線がちくちくと僕を刺す。
普段ひっそりと、観葉植物のように過ごしている僕には耐えがたい空気だった。
「なによー、みんなしてこっち見てー。見せもんじゃないぞー。ね、藤堂君」
「なんで僕に振るんですか」
「む? 特に理由はないぞよ」
ちくしょう、やっぱり苦手だこの人……。
「茜ちゃんも、藤堂君と一緒がいーよね?」
「わ、私は……真崎君が、嫌じゃなければ……」
視線は僕から外したまま、四季宮さんは小さく言った。
結局あれ以来、僕たちはろくに会話を交わしていなかった。正確には、一度互いに謝罪をかわしはしたのだけれど、それからも特に状況が改善することはなかった。
「嫌じゃ、ないですよ……」
「そ、そっか……なら、よかった……」
たどたどしく会話する僕たちを見て、織江さんが何とも言えない表情を浮かべていた。「えーい、じれったいじれったいもどかしい! さっさと仲直りしろよバッカやろー!」という心の叫びが聞こえてきそうだ。
待ってください織江さん、必ず、修学旅行中には必ず、四季宮さんと仲直りしますから……。
しかし……と、僕は周囲を見渡す。
目下の問題は、こちらではないだろうか。
グループは、四~五人の男女混合で、という話だった。
僕たちのグループは、四季宮さん、織江さん、僕の計三人。
男女混合の条件は満たしているが、いかんせん人数が足りない。
しかも、僕という異物が入り込んだことで、男子が僕たちのグループに入り込み辛くなっているようだった。
「あの、織江さん。やっぱり僕は抜けた方がいいんじゃ……」
「ふむ、藤堂君はバカなのかな?」
そこまでストレートに言われると、逆に清々しい。
「それじゃなーんの意味もないでしょーよ。だいじょーぶ、手は打ってあるから!」
「手……?」
「神の一手ってやつさ」
きらーん、と効果音が尽きそうなキメ顔で言う。
やっぱり苦手だけど、見てて飽きない人だ。
噛めば噛むほど味が出るところが、どことなくスルメに似ている。
「っにしても遅いなー。そろそろ来てくれないと、困るんだけど――」
とその時。
教室の扉ががらがらと開いて、気だるそうな生徒が入って来た。
徹夜明けなのだろう。
今にも閉じそうな半目をこすりながら、かかとを踏んだ上履きを引きずって、だけど気負うことなく堂々と。
六限目が終わった後のホームルーム。
あと三十分もすれば下校時間になるような時間に登校してくる生徒を、僕は一人しか知らなかった。
「御影……?」
「よぉ、おはよ」
「おっそいよ、こーちゃん!」
こーちゃん? ああ、そういえば御影の下の名前って、浩二だったけ。でも、どうして織江さんが御影のことを愛称で呼んでいるんだ?
「るさいなあ、織江。徹夜で仕事してたんだから仕方ねーだろ。来ただけ感謝して欲しーんだが」
お、織江……?
こっちはこっちで呼び捨てなのか?
「あー、また生活リズムぐちゃぐちゃになっとるんでしょー。許さんからね。私、今度抜き打ちで家に押し掛けるからね」
「くんな、まじでくんな」
「え、えーっと……?」
色々と理解が追い付いていない僕と……恐らく僕と同じ状況であろう、目をぱちくりさせている四季宮さんに、織江さんはばっちりとVサインをかました。
「よっし、これで四人一班できたね! 修学旅行は、この四人で回るってことで、けってーい!」
最初のコメントを投稿しよう!