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話しかけると、兄の同級生だと説明する彼女は、取り繕ったように落ち着いていて、あの時の慌てぶりを見せない。
あの時、耳まで赤くしてうつむきながら兄の名前を呼んだのは、単に思いがけない再会に驚いたからだけじゃないだろう?
俺の名前を知っていたのは、小学校の時に会ったことがあるから、と言われてもピンとこない。
あの頃の3学年の違いは大きいし、小学校なんてずいぶん前の話だ。
早くから始まった飲み会は8時には終盤になり、運転手としてノンアルコールビールしか飲んでいなかった俺が同僚を二人乗せて帰る番だった。
こんな田舎じゃ、週末の夜にはタクシーが捕まらないことも多く、代車を予約しておくか、グループの誰かが交代で運転手の役をこなす。
先程、グループへの混ざって飲む誘いは断られたが、まだカウンターで飲んでいる彼女が気になって、店を出掛けに声をかけた。
「帰り、どうするんですか?」
「あ、一緒に飲む約束だった友達の旦那さんが送ってくれる予定だったんですけど。うーん、タクシー拾いますかね」
デートかと思ったら、女子会か。
タクシーは金曜日のこれからの時間帯、かなり待たないと捕まらないだろう。
「俺、今日、運転手なんで、ちょっとここで待っててください」
小学校が一緒なら、家はほぼ同じ方向だろう。送る事を申し出て、返事も聞かずに彼女に話しかけようとする同僚の肩を抱いて回れ右させて店の外に停めた車に向かった。
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