縁側の月

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徹君がお水を持ってきてくれて、二度寝から起きると、私もシャワーをして、簡単に身支度をして朝ごはんを作った。 ハムとチーズのホットサンド。 コーヒーを入れて、トマトと玉ねぎでサラダにする。 簡単なものだけど、今日も徹君は美味しそうに食べてくれる。 綺麗に平らげて行く徹君を見ながらコーヒーを飲んでいたら、ものすごく幸せな気分になってきた。 昨日、家にこの人と二人で帰ってきた時には、一晩だけの何かがあっても、朝には一人になっているかもしれないと思っていたのに、今、ここに好きな人がちゃんといて、私のことを好きでいてくれる。 「今日、葵、何するの?」 「えっと、家の片づけとか、庭仕事。あとちょっと仕事かな」 フリーランスで仕事をしていると、空いた時間はだいたい何かしらやることがある。 「徹君は?」 「午後、フットサルで、夜、実家に顔だしてご飯」 それが日曜の日課らしい。 「葵と付き合ってるって言っていい?」 「え、だれに?」 昨日の今日で、びっくりする。 田舎はうわさが流れるのが早いから、意識して隠さない限り、すぐに知り合いには伝わると思うけど、自分の年を考えると、わざわざ言って回るべきでもない気がする。 「兄貴」 樹君か。 徹君は、どう思っているんだろうか。 初恋の人がお兄さんなわけで、すこし気にしているのだろうか。 「いいよ。樹君なら」 「っていうか、徹君がいいんなら、誰に言ってもいいよ」 考えてみたら、多分、私がこの話題を避けたいのは私の実家、親戚だけだ。 「ははは。ウザイな、俺。俺の彼女だって、言って回りたい」 私は、自慢できるような子でもないのに、ありがたい人がいたものだ。 「徹君、うれしいけど、だれも別にうらやましがらないよ」とあきれて笑う。 「葵ちゃん、分かってないな。田口先輩に口説かれてたじゃん」 そういえば、あの人もちょっと変わっている。 あの人のお誘いは、単に暇つぶしっぽかったけど。 「分かってないままでいいわ。危ない」 と、いうと、手を伸ばして私の髪をくしゃくしゃにした。 徹君は、私を時々子供のようにあやす。 私のほうが年上なのに。 でも徹君だと嫌な気がしない。 ただただ、安心するから、不思議だ。
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