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甘さと苦さ
徹君が帰ってから、緩みっぱなしの頬で家を片付け、洗濯をした。
夏の昼に干したシーツは夕方には乾くだろう。
一通りの家事をして、家庭菜園に水をやって、メールを開ける。
以前働いていた会社の上司からメールが入っていた。
「いつもお世話になっております」で始まる定型の挨拶に、定年退職の連絡が続いた。
この方のおかげで、会社を辞めたあとも外注できる分の翻訳の仕事を回してもらっている。
お世話になった。
退職については、ずいぶん前に個人的に話を聞いていたので、驚かない。正式な日取りが決まった連絡に過ぎない。
ただ、メールを読み進めて、ドキリとした。
「つきましては、8月17日付で、加藤が課長に就任することになりました。佐藤さんへお願いしている案件につきましても、加藤に引き継ぎますので、なにとぞよろしくお願いします」
あの課で、課長に昇進する「加藤」といったら、あの人のことだろう。
一年前まで一年弱、付き合った、と言えるのか、関係のあった人だ。
あの頃、加藤さんは係長で、私は派遣社員だった。
苦い思い出になってしまった人だ。
「どうせ、派遣だろ」
「葵は一人で生きていける」
あの人とのことで、だいぶ泣いて、強くなった。
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