甘さと苦さ

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その会社からの仕事がこれを機になくなるかもしれない、というのは、もう考えてあった。 フリーランスなのだから、上司の独自の判断で回してもらっている仕事は、人事で簡単に回ってこなくなることくらい心得ている。 加藤さんなら、もう回ってこないだろう。 あまり過去のことを考えないようにしながら、別のメールを処理していく。 海外に住む友人の美優ちゃんからもちょうどメールが来ていた。 あの会社に入ってすぐ一緒にお仕事させていただいた同僚で、しょっちゅうやり取りする相手ではないが、季節ごと位にお互いの近況の報告が続いている。 同じように翻訳、通訳などの業務をしていて、一緒に飲みに行ったり一番仲良くしてもらった人だけれど、海外のコンサルに見初められて移住してしまった。 「来年一月に出産予定です」との妊娠の報告だった。 柔らかい文章に、彼女が幸せなのが伝わってくる。 きっと素敵なママになるだろう。 世界は恋や愛や、命であふれている。 涙や、悲しみと同じだけ、そういう素敵なものがあふれている。 彼女のメールには続けて、彼女の妊娠・出産で今やっている翻訳の仕事を今後を少し減らしていくつもりだということ、私が望むなら、それを私に回せるようにエージェントに紹介してくれると書いてあった。 美優ちゃんには、フリーランスの仕事やあの会社の課長が変わるという話は前にしてあったので、心配してくれたらしい。 美優ちゃんに、お祝いと感謝の気持ちを返信する。 私は必死に一人で生きようとして、常にだれかに助けられている。
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