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徹君は2年前にお母様の病気で帰って来たと前に聞いているけど、お母様はもう亡くなっている。ずっとここに居ようと思っているのだろうか。
「徹君。地元に帰ってきて、良かった?」
「んー。葵に会えたしねー」
と、茶化すように笑った。
パスタの茹で加減を確認して、ゆっくりと話し出す。
「仕事で言うと、プロジェクトの規模はもちろん違うんだけど、俺がやっている事は基本、同じだし。……母親がさ、亡くなって、人の時間って、案外無いんだなって思ったんだ。……そのうち親孝行する、とかさ、老後は田舎でのんびりしたい、とかよく言うけど、そのうちも、老後も来ない事もあるんだなって。だったら今からここで暮らすのもいいかなぁと思って」
ちゃんと話してくれたので、しっかり聞こうとじっと聞いていると、徹君がこっちを見て照れた様に付け足す。
「なんか、爺臭い? あ、もちろん、まだ若いんで、仕事もバリバリやる気あるし。そして、葵ちゃんが側に居てくれたら、益々、楽しい」
ニカッと笑って、出来上がったナスとベーコンの入ったトマトソースのパスタを出してくれる。
「頂きます」をして、早速頂く。
手際もいいし、お味も良くって、びっくりする。
「大学んとき、イタリアンのファミレスでバイトしてた」
それでか。
私の料理も何回も食べてもらってるけど、これじゃ、多分、徹のほうが上手だ。
「あ、ワイン飲む? ビールもあるけど」
「今日、車」と言うと、徹くんが私の目を見て、「泊まっていけばいい」と言う。
それだけで心臓を掴まれたようになって、息が止まる。
「明日、お仕事でしょ?」
「ハハハ。仕事だね。でも、葵ちゃんがお泊りした位で、平気ですよ」
と色っぽく笑った。
「葵、明日、仕事、午後からじゃないの?」
この瞳に射抜かれたら、抵抗出来ない。
「うん。出かけるのは午後。……じゃ、泊まってく」
妙に恥ずかしくなって、パスタに視線を移して返事した。
頂く飲み物、イタリアンならワインかなぁと、でも暑かったからぐいっとビールも捨てがたい。
「ビールなら、これあるよ」と徹君が冷蔵庫から、瓶のぺローニを取り出す。
「そんなのここ、売ってる?」
イタリアのビール。田舎に売っているなんてびっくりだ。
「ハハハ。こないだ見かけたから買っといた。葵、こういうの、好きそうだから」
「うん。大好き」
ビールの味が分かるほど上等な事ではなくって、気分が上がるってだけだけど、食事の雰囲気に飲み物を合わせたりするのは大好きだ。
パスタを頂きながら、徹君がグラスに入れてくれたぺローニを飲む。
徹君が瓶のままビールに口をつけて、笑っている。
「幸せで、ほっぺが落ちちゃう」
「ほっぺは落ちないで欲しい」
と、手を伸ばすと、私の頬をそっと撫でる。
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