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待っているように、とトオル君が消えてから、三十分ほどワインを飲んで、強いほうではない私はすっかり酔っていた。
確かに田舎じゃ、タクシーはすぐには捕まらない。
トオル君は帰って来て、隣の席についた。
運転手の役で酔っていないトオル君は、金曜の夜なのにしゃきっとしている。
「お待たせしました。少しいいですか?」
そう断ると、ノンアルコールビールを一杯注文した。
ちらっとこっちを見ると、
「兄と付き合っていたんですか?」
と聞かれた。
直球。
ハズレているけど。
「いや、そういうのじゃ」
「え、あ、そうですか」
そうですか、という言葉と裏腹になんだかしっくりこない様子で、こちらの様子を伺われている。
「片想いでしたねぇ」
酔いも手伝って、弟君に何の告白だろう。
本人にしたこともない、もうする予定もない告白。
「はぁ、そっか。兄は、もう結婚してますよ」
知ってます。
昔の話だから、大丈夫。
幸せな兄の家族にちょっかいを出すヤツなのかどうか確かめているのか、じっと私の目を見る。牽制かなぁ?
「大丈夫ですよ。知ってます。大昔の片想いが懐かしかっただけです。中学の頃の。本人に今更、言わないでくださいね」
あんまり他の人に話したこともないのに、この間の変な行動の穴埋めのためか、お酒のせいか、案外簡単に口に出てしまう。
十五歳の樹くんが好きだった。
今、どうこうしようとは思っていない。
SNSで2、3年くらい前に結婚したのを知った。
今でも先日のように突然会うのでは?と思ったらドキリとすることはあっても、基本的には、いい思い出だ。
その思い出に心を強く動かされるのは、毎日が楽しくってキラキラしていたあの頃の自分への懐かしさも混じっている。
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