甘さと苦さ

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徹君が湯船に浸かると、私を脚の間に座らせる。 「寄りかかっていいよ」と言われて、背中をもたせ掛けると、お湯の中で肌が触れる。 軽く結んだ私の濡れた髪をよけながら、ほつれた髪を耳にすくい上げてくれる。 普段もう少し背が高かったら、と思うことが多い人生だったけど、徹君の大きな手足に囲まれるように、きれいに収まってしまうのは、すこしうれしい。 大きな手がおなかに当たる。 身体の奥がきゅっと反応してしまう。 「話、しようか」 落ち着いた優しい声が耳元で響いた。 さっき、もう聞かなかったことにした件を持ち出されているのだと、徹君の声のトーンで察する。 抱きしめられていると、この人と一緒にいれば、なんでも安心できるような気がした。 「うん」 つぶやくように返事をするとゆっくり徹君が話し始める。 「こっちに帰ってきてから、が、知りたい?」 「うん。全部じゃなくていいの。ただ、身近にそういう人がいるんだったら、聞いておきたい」 と、なるべく落ち着いて返事をする。 土足で人の過去に踏み込みたいわけではない。でも気になるところは、気になる。 「身近には、いないなぁ。えっと。二年前に帰ってきて、ちょっとしてから高校の頃の彼女と再会して、しばらく付き合った」 静かに聞いていると続けてくれる。 「懐かしかったし、いい子だったけど、当たり前だけど、高校の時とは違って、三か月くらいで別れたかな。今は連絡もしてない」 「その人だけ?」 「んー、そんなとこ」 そんなとこ、というニュアンスに、あぁ、その後もちゃんと付き合った人じゃない、デートだけとか、もしかしたらワンナイトくらいは他にあるのかもしれないな、と思う。 徹君は多分絶対、もてる。 でも、身近に私が心配するような人がいないなら、それでいい。 「はい。ありがとうございました」 と、軽く頭を下げる。 これ以上詮索しても、嫉妬の泥沼にはまるのは私だ。 ぎゅっと私を抱きしめると、「どういたしまして」と笑った。
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