甘さと苦さ

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「え、うん。そうなんだ」 ここに来る前の過去まで知りたくないかもしれない。少しびっくりしている。 「今まで、お世話になってた課長さんがもうすぐ定年だから、その人が今度、課長になるらしいのね」 「ん?」 「その課から、今までの課長さんがお仕事くれてたから、引き継ぎの連絡は取ることになるんだよね。今までやってた関連の仕事が終わったら、もうそこの仕事はなくなるんじゃないか、とは思うんだけど」 「うん」 ゆっくり返事をして考えている。 「葵のお仕事は、俺はよくわからないけど、仕事は仕事だしね」 すこし間をおいて、なにか考えたのか、そっと「大丈夫?」と聞かれた。 優しい人だ。急に、泣きそうになる。 「ん、大丈夫」 と、答えると、やさしく頭にキスされた。 しばらくそうして抱きしめて、耳を軽くいじると、ふざけたように徹君が 「そいつ、葵ちゃんの初めてのやつ?」 と、からかうように聞いてきた。 「え?違うよ」 話の方向性が急に変わってびっくりしたけど、軽いエロ話で気分を変えようとしているのだろうな、と思う。 「んー、その人じゃない。その人は二番目。初めの彼氏はイギリスの人」 なるべく恋愛経験の少なさをコンプレックスに感じていることが伝わらないように、さらりと言った。 「え。そうかぁ」 彼女があんまりにモテない女だと聞いて、引いているかもしれない。。。 顔が見えない分、どう思っているかは分からなくってしばらく、その先なんと言っていいのか分からずにじっとしていると、優しく耳や、腕を撫でられていて、気がつけば、少し、のぼせてしまいそうだった。 もっとくっついていたいけど、多分、これ以上は湯あたりしてしまう。 くるりと徹くんに向き直って、ぎゅっと抱きつく。 「葵?」 少しだけ。 そうやって、パワーを溜め込む。 「のぼせそうだから、先に上がります」 もう一度、目をつぶってもらって、上がると、少しふわふわしていた。
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