甘さと苦さ

18/20
前へ
/312ページ
次へ
週末は、土曜に私の塾の仕事が入ってしまって、約束していたデートには行けなかった。 もう一人の先生が風邪をひいて、代打でクラスを受け持ったのだけど、小さいチームでやっているので、こういうことはお互い様だ。 トオル君は、 「ん、わかった。俺もちょっと家で仕事するわ。夜は会える?」 と聞いてくれた。 「あの。生理中だけど、いいですか」 と確認する。こういうことは、付き合っていくなら当たり前のことだけど、すこし言いづらい。 「全然いいけど、体、きつい?俺がごはん作ろうか?」 と返事があった。 仕事の終わった八時過ぎ、トオル君が家に来てくれて、トオル君がパスタを作ってくれて、私も一緒にサラダを作って、一緒に食べた。 テレビをみて、一緒に映画を一つ見る。 なんてことない夜を一緒に過ごす。 夜はお腹がちょっと痛い私の腰に手を置いて、一緒に寝てくれる。 私はトオル君の腕の中にすっぽり収まる。丁度いい。 「トオル君、今日、ありがとうね」 と、ベットの中でお礼を言う。 「なに?」 何に感謝されているのかわからないらしい。 「今日、お仕事になっちゃったけど、怒らなかったし。ご飯も作ってくれたし。うれしかった」 「ん。俺も、忙しくなったら、がーっと忙しいから。忙しいって言っても、ちょっとはこう会える程度の忙しさだけど、これから、週末出かけたりできないのがちょっと続いたりって、余裕であるから。そこは、お互い様で勘弁してください」 「はい。お願いします」 大人同士、仕事で会えない、そんなことはこれからたくさんあるだろな。でも、私の不定期な仕事を対等に扱ってくれるのは、うれしかった。 大好きが伝わるように、ぎゅっとトオル君の胸に顔を寄せる。 小さい子供にするように、頭を撫でてくれている。 この人といると、安心する。 大丈夫だから、もうちょっと頑張ろうと思える。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4824人が本棚に入れています
本棚に追加