試合

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入口のホールまで戻ると、小さな男の子がタタタっと目の前をよぎり、キョロキョロしていた私は、ぶつかりそうになった。 焦って足を止めたら、 「あー、ごめんなさい!」 と、お母さんが慌てて、追いかけている。 見れば、樹君の奥さんだった。 「あ、こんにちは」 と声をかけると、 「あ、葵さん。こんにちは。皆、今、あっちの控室です」 と、遼君を追いかけながら、廊下の奥を指さしてくれた。 あっちに控室があるのか。 控室というけれど、もし着替える場所なら、私は、このロビーで待っていようかな。 どうしようかな、と立ち止まっていると、ちょうど携帯がなった。 「あおい?今どこ?」 徹君の声が耳元に響く。 「今、体育館の玄関。ちょうど優香さんに会ったよ」 優香さんと遼君が走っていったほうをちらりと見ながら、返事をする。 「見つけた」 耳元と、廊下から同時に言葉が聞こえて、びっくりして振り返ると、徹君が携帯片手にこっちへ歩いてきていた。 もう試合をしたらしく、サッカーの服装にジャージを羽織っている。 「来てくれて、ありがと。これからもうちょっとしたら、また試合だから」 と、ジャージのポケットに手を突っ込みながら話す徹君は、スポーツウェアのせいか、いつもより若く見える。 「あと二試合で、終わり。午前中に二試合したし。一つ、負けて、一つ勝った」 「試合、ギャラリーで見てたらいい?フロアでみるの?」 さっき、フロアで見ている人も多かったけど、あれは、関係者なんだろうか。それとも友達もフロアで見ていいのか。 「んー、どっちでもいいんだけど。フロアのほうが近いけど。時々、ボールが来て、危ないかな」 私の運動神経では、ボールが来てもよけれる自信は全くない。 小学校のころ、サッカーで男の子が蹴ったボールをお腹にまともにあてて、ものすごく痛かったのを思い出す。 「葵ちゃん、ボール飛んできても、よけれる?」 と、子供にからかうように笑う。多分、運動神経がないことはばれている。 「ギャラリーにします」 ぞろぞろと知った顔が廊下の奥から出てきたのが見えて、挨拶をする。 木元君が「お久しぶりです」と挨拶してくれるので、「こんにちは」と頭を下げた。 樹君も後ろのほうにいる。 「樹君もでるの?」 「おー、葵ちゃん。俺は補欠。練習してないから、ちょこっとだけ」 タタタと遼君が走ってくる。 「パパぁ―」と叫んで思いっきり走ってくるので、優香さんが「走らない!」と言いながらも本人も追いつこうとして小走りしているのが微笑ましい。 体育館の中へ移動するようなので、私はギャラリー席へ向かう。 優香さんは、 「遼が走り回るし、私もギャラリーに行こうかな」 と遼君の手をつないで、一緒に来てくれた。
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