試合

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「トオル」 と、声をかけると、徹君は一瞬、驚いたようだった。 呼び捨てにして良いと言われているけど、なんとなくの癖で、いつもはあまり出来ていない。 徹君は私が二人の時、それも抱き合っている時位しか、今まで呼び捨てにしていないことに気がついている。多分、今、呼び捨てで呼ばれて、びっくりしている。 情けない意地悪だけど、こっちは必死だ。 徹君のすぐ側にいた女の子には充分届いたと思う。 余裕なんかなくて、声が引きつりそうになってしまうのを、どうにか落ち着かせて、 「試合、すごかったね」 と徹君の目だけを見て会話を続けた。 私が意地悪をした相手の顔も、周りも、見ることが出来ない。 内心、本当にオロオロしている。 徹君は私の心境を何処まで察したのかわからないけど、私のこの行動を面白がる様に、じっと私を見て笑いながら、 「惚れ直した?」 と言った。 一気に顔が赤くなるのが分かった。 そこまで意地悪するつもりはなかったし、すぐ側には優香さんもいる。 困って、「はい。いいから」と誤魔化すように返事をすると、「すぐ着替えて来るから、葵はその辺で待ってて」と控室へ向かう。 いたたまれなくなって、トイレへ一旦逃げ込んだ。 やばい。 小心者なのに、嫉妬に任せて意地悪をしてしまった。
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