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お手洗いを出るとすぐにトオルが立っていた。
「トオル君もお手洗い?」
「いや、俺は大丈夫ですけど」
出口の方を指差して「車、店の前です」と私を促した。
触れてないけれど、私がふらついたらいつでも支えられるように背中に腕を回している。
優しいなぁ。
久しぶりに外で飲んで思いのほか酔っている。
シラフの子に迷惑をかけているようで、申し訳ない。
トオル君の車は国産の黒のハッチバックで、トオル君は酔っぱらいの私に助手席のドアを開けてくれた。「どーぞ」
「おじゃまします」
乗り込んでから、こういうのは彼女さんが嫌がるだろうなぁと思って、ごめんね、と謝った。
「え、なにが?」
「彼女さんがいたら、悪いな、と思って。知らない人が乗ったら嫌でしょう?」
と謝ったところで、乗せてもらわないと帰れないから、図々しいのは百も承知。ただ、後ろに乗るべきだったのか?それじゃタクシー扱いっぽい?
正解が不明。。。
「今、いませんし、会社の人や顧客が乗ることもあるんで、大丈夫です。」
なら安心。
「あ、そう。ありがとう」
「実家に帰ります? さっき言っていた家ですか?」
「うん、その家。古いけど、もう住んでるの。上里のほう。近くなったら道案内するね」
トオル君は、はい、と言って車を発進させた。
車内で隣で運転するイケメンというのはさすがに、心臓に悪い。酔の回った私には特に。
トオル君はさすが建築士らしく、古い家に興味があるらしい。
「古いよー。でも直すお金もあんまりないから、必要なとこだけちょっとずつ直していこうと思って」
縁側がついていて、それが一番気に入っていること。
キッチンとお風呂が古くって寒いこと。
障子は住み始めてすぐに自分で貼り直したけど、ヒビの入った窓がまだそのままなこと。
帰り道の間ずっと、あれこれ喋り続け、トオル君はあれこれ相槌をうってくれていた。
途中からすごく眠たくなった。
私はすぐに酔って、楽しくなって、眠くなる。
人の車で寝たらダメだと思って、何か話そうと思って、他愛もない話を続ける。
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