縁側の月

東京

九月の祝日前の金曜日、私は久しぶりに東京の地下鉄に揺られていた。
この間まで、毎日の通勤ルートだったのに、もうすでに懐かしく感じるから不思議だ。
まぁ、出勤時の殺人的な混み方と、ゆったりした午後の混み方ではまるで違うので、そう感じるだけかもしれないけれど。

先月、前職でお世話になった山本さんが退職され、加藤さんが新しい課長に就任された。メールで引継ぎの挨拶が送られてきたものの、実際のやり取りは部下の担当者に任せられるので、それで良いと思っていたし、もしかしたら山本さんのご厚意で回していただいていた仕事だし、加藤さんになってすぐ打ち切られることも覚悟していた。

エージェンシーに回すよりは、手数料がない分、直接取引する私のほうがレートが安いはずだったし、担当者への連絡も、直接している分、丁寧だったと思う。自分の仕事は、内容に関しても責任を持ってやっているつもりだ。

だけど、あの部署で、こういった細かな外注はすぐに責任者次第で発注先が変わるのを見てきたし、加藤さんとの過去の個人的な付き合いを考えると、簡単に切られても仕方がないと分かっている。

それが、先日、加藤さんより、一度直接会社に出向いてくれないか、と打診された。このまま仕事を回してくれるにしても、普段は担当者からメールでの資料が送られてくることで済む仕事だ。だけど、引継ぎを機に、担当者とも直接会って、一度顔を合わせておいてほしい、とのことだった。

遠方だし、日程はできるだけ合わせる、と言われたので、他の予定とも兼ね合わせて連休前の金曜日を指定した。