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アンドリューと電車で2時間ほどかけて東京に来た。
渋谷の交差点に行きたいというアンドリューと分かれて、私は3月まで働いていた会社の第4会議室に通されていた。
コーヒーを出されて飲みながら、別の会議で遅れているという加藤さんを待っている。
すでに、メールでいつもやり取りしている担当者から、これまで関わった案件の次のシリーズ商品が出るという説明はもらって、挨拶は済ませた。
あと話すことがあるとすると、もしかしたら見積もりなど、経理の話位だろうか。
加藤さんを待っている間にこれまでの取り扱い説明やパッケージなど私が最近関わった商品の出来栄えを、担当者が見せてくれている。
確かに、こうやって足を運ぶ事で、メールでのやり取りだけでは見えない実物が見えて、雰囲気が掴めて、翻訳がやりやすいというのはある。
十五分ほど遅れて、加藤さんはやってきた。
席を立って頭を下げると、「すみません。遅れました。お久しぶりです」と、同僚として働いていた頃よりワントーン距離を置いた挨拶をされた。
きっちりとスーツが似合う三十代半ば過ぎの男は、遅れた、という割には落ち着いている。
担当者に向き直ると「もう次の商品の説明はした?」と確認すると、「じゃ、えっと、これじゃなくって、前に会社に居るときにやってもらったブランドの話なんだけど」と矢継ぎ早にミーティングを進めていく。
契約社員だったときにも翻訳業務もやっていて社内の企画書の段階で関わった商品の話があがる。
その商品のウェブコンテンツの日本語版の翻訳をここの担当者と一緒にやらないかという話だった。
翻訳の仕事は文字数計算で見積もりが多いのだが、これは長いプロジェクトとして、ブランディングも含めたコピーライター的な部分もある仕事らしい。
その分、通常の翻訳より担当者とのミーティングが増えるわけだけど、リモートで良いという事だし、私的にはやりがいがある仕事だった。
その分、上乗せで良いから、どう?と言われて、断る理由はなくなった。
ほぼまとまると、「じゃ、そういう事でお願いします」と、加藤さんが切り上げた。
担当者が立ち上がって、私も挨拶を返した。
「じゃ、戻ってて良いから」
加藤さんは先に担当者を送りだすと、「ちょっと佐藤さん、良いですか?」ともう一回、私を席に着かせた。
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